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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第15章 天下の険



「ハイジくん、先に旅館に行って部屋の準備しておくね」

「ありがとう。頼むよ」

神童くんに付き添うハイジくんにそう告げて、テントを離れた。
今夜宿泊予定の旅館は、幸いここから徒歩で向かえる距離にある。
仲居さんに客室まで案内してもらい、まずは窓を開けて換気。
そのあと布団を敷いて、あらかじめこちらで用意しておいた加湿器で室内の湿度を上げる。
水分補給用のペットボトルも何本か置いてきた。


芦ノ湖の駐車場まで戻ると、既にユキくんとジョージくんが合流していた。
テントから少し離れた場所で、神童くんが移動できるようになるのを待っている。

「お疲れ様。ジョージくん」

「うん…。ありがとう」

まだ神童くんのことが尾を引いているようで、ジョージくんは力ない笑顔でそう答えた。
もう誰も体調を崩すことのないよう、持ってきたマスクを二人に渡す。

「神童くん、どう?」

「さっき少し話してきたよ。点滴のおかげでだいぶ回復したみたいだな」

「そっか。よかった」

「……明日は、一斉スタートだ」

「うん…」

厳しい表情でユキくんは呟く。
寛政大は、往路優勝の房総大から11分53秒遅れてのゴールとなった。
1位とのタイム差が10分以上ある大学は、房総大のスタートから10分後、一斉に繰り上げスタートをするルールになっている。
もちろん、端数の1分53秒がなくなるわけではない。
往路プラス復路の総合タイムで順位は決まる。


ここ芦ノ湖は往路のゴール地点であると同時に、復路ではスタート地点となる。

明日の第一走者は、ユキくん。

神童くんが上ってきた山を、今度はユキくんが駆け下りる。
6区の山道をどう走るか、ユキくんは既に頭の中でシミュレーションでもしているような顔つきに見えた。






「氷枕貰ってきたよ」


「サンキュ」


神童くんは旅館に到着早々、布団に寝かされた。
体温は微熱程度に下がってきているものの、回復するまでには当然時間がかかる。

「部屋はやっぱり空きがないって」

「正月の箱根だもんなぁ。当日のキャンセルでもなけりゃ無理だよな」

この旅館に今晩泊まるのは、神童くんとユキくん、そして監督の3人。
神童くんの風邪が感染することのないよう、できることならもう一部屋頼みたいところだけれど、それは無理だった。


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