第15章 天下の険
「ああ、ここにいるが。わかった。……舞ちゃん?」
後部座席のハイジくんから、声を掛けられる。
「みんなが舞ちゃんを出せって。グループ通話に入ってくれる?」
「うん…」
何事かと恐る恐るグループ通話に参加すると、まずニコチャン先輩の声が聞こえてくる。
『あ、舞ちゃんか?ジョータがよぉ、ハナちゃんが自分の事好きなんじゃないかってぬかしてんだよ!舞ちゃん何か知らねぇ?』
「え?今駅伝中でしょう!?何でそんな話に…」
『3区の沿道にハナちゃんが応援に来てたんだと。特別な意味があると思ったんじゃねぇか?本人は俄然その気だ。ジョージにも伝えてる』
『弟を動揺させてどうすんだ、あのバカ…。ハナちゃん、舞にはそういう話しねぇの?』
ユキくんもこの不可解なミーティングに参加していたようで、私に発言を求めてくる。
「双子の話は家でもよくしてるよ。でもジョータくんのことばっかり話題に出すとか、そういうわけじゃないし…」
確かに葉菜子と双子は仲がいい。
もしかして、ジョータくんかジョージくんのどちらかが好きなのではと、頭を過ぎったこともある。
ただ、葉菜子の二人への態度は至って平等なのだ。
どちらか一人を特別に好きなのかどうかは、いくら姉とは言え私にはわからない。
『監督から伝えてもらいますか?ハナちゃんのことはジョータの勘違いだよ、って』
『前代未聞だろ、そんな指示!』
おっとりしたムサくんの意見に対し、先輩のキレのあるツッコミが入った。
「判断は俺がします。釈然としないが…」
話を切り上げたハイジくんが通話をオフにしたところで、恋愛ミーティングは終了した。
「まったく。こんな時に何考えてるんだか…」
スマホ上に映っているジョージくんは、あらぬ方に目を遣り、何だか心ここにあらずという感じ。
「まあまあ。緊張でガチガチよりはいいんじゃ……。
………良くない…の、かな……?」
ジョージくんのフォローをしようにも、経験者でない私には難しい話。
カケルくんはさっきから不機嫌そうにブツブツ何か呟いている。
私の真後ろに座っているので表情は見えないけれど、明らかにイライラしてるのが伝わってくる。