第15章 天下の険
様子を見て間もなく、ジョータくんは一気にスピードを上げ並走していた選手を抜き去って行く。
「絶好調…じゃない?二人から見てどう?」
「俺もそう思います。何だったんだ、さっきのは…」
「可愛い女子でも見つけたんじゃないのか?」
「まさか。いくらジョータでもそれは…。駅伝の最中ですよ?」
ハイジくんってばこんな時に何て冗談を。
常日頃から "モテたい!" が口癖のジョータくんとは言え、この大舞台で女の子に気を取られて脇見なんてあるはずがない。
取りあえず順調に走っているのならば問題はない。
何かトラブルかと一瞬焦ったものの、それを払拭してくれるような走りでジョータくんは追い上げる。
『寛政大学が驚異のラストスパート!短距離選手のような爆発的な走りで二つ順位を上げます!』
すごい、ジョータくん…。
本番で練習以上の力を発揮できるなんて。
兄弟揃って切磋琢磨してきたことが功を成したと言えそうだ。
お互いが最高の味方であり、理解者であり、ライバル。
ジョータくんのこの活躍を知れば、ジョージくんの負けず嫌いに火が付いて更なる成果に繋がるかもしれない。
ジョータくんが無事に完走し、襷がジョージくんに渡ったとの情報が入った頃。
箱根湯本駅に到着した私たちは、底冷えのする箱根の地に降り立った。
体感的に、寒さは東京とさほど変わりない。
ただ芦ノ湖となると、ぐんと標高が上がる。
事前に現地の気温を調べたところ、同じ箱根でもここより3℃低い数字を示していた。
芦ノ湖まではタクシーで20分ほど。
その場所こそが、神童くんを迎えるゴール地点。
いよいよ、箱根の山に、神童くんがやって来る。
「ああ。…え?ちょっと意味が…。ジョージがどうした?」
タクシーに乗り込んですぐ、ムサくんからの連絡にハイジくんの声色が変わった。
ジョージくんならきっと安定した走りを見せてくれるだろうと思っていたところへの、異変を知らせるかのようなやり取り。
何かあったのかと、ハイジくんの声に耳を傾ける。
「それは、ハナちゃん本人が言ったことなのか?ジョータのことが好きだ、って」
……え?
何の話?
真剣に相槌を打っていたと思ったハイジくんの口から、とんでもない言葉が飛び出した。