第15章 天下の険
上空から映し出された相模湾は、太陽光を反射して煌めいている。
ひと際存在感を放つ、くっきりと輪郭を現した雄大な富士山。
日本一の高さを誇るこの山の見え方が運次第だということは、有名な話。
少しでも雲がかかっていたり霧が深かったりすれば、ここまで綺麗にその姿を拝むことはできない。
空撮で伝えられる景色は見ているだけならば壮観だ。
ただし、気象条件によっては海風の影響を強く受ける3区。
舞い上がる砂が目、脚を酷使し、走る邪魔をする。
酷い時には呼吸にまで影響することも。
加えて、日が昇ってくる時間帯ということで日差しも強くなる。
幸いなことに今年の天候は比較的穏やか。
ジョータくんの性格的にも、この景観の良さは走るモチベーションアップにも繋がるような気がする。
「調子いいな、ジョータ」
「はい。3区をジョータにしたのは正解でしたね」
特にトラブルを起こしたり失速する気配もなく、快走を見せるジョータくん。
順位も着実に上げており、予選会を1位で通過した東体大の背中を捕えそうな距離感だ。
練習同様の落ち着いた走りを見せるジョータくんに安心して、肩の力が抜ける。
少しだけ意識が他に逸れてみれば、急に電車内の環境が気になってきた。
季節柄暖房が効いていて、閉鎖空間ということもあり換気は不十分。
「二人とも、のど飴舐めておく?常温のミネラルウォーターもあるよ。あと、マスク」
「ありがとうございます」
「準備がいいな、舞ちゃん」
「一応風邪予防をと思って。ここから先、また寒くなるもんね」
標高が上がるにつれ、当然気温は低くなる。
私たちが向かう先は一層の冷えが予想される。
走るためのコンディションは、少しでも整えておかなければ。
「……?どこ見てんだよ、あいつ…」
ミネラルウォーターを数口飲み込んだと思ったカケルくんが、不可解な顔をして呟いた。
「どうしたんだ?」
口の中で飴を転がしながら、ハイジくんもスマホを見る。
「ジョータの奴、何かしきりに後ろの方気にしてて…」
「本当だ。どうしたんだろう?監督さんから何か指示が入ったのかな?」
「いや。監督が指示を出していいタイミングは決まってるんだ。まだジョータはその地点に到達していないはず」