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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第15章 天下の険



『寛政大学 ムサ・カマラ、間もなく20kmに入ろうかというところで更に5人を抜き去りました』

スマホ画面右端には総合順位が映し出されていて、寛政大のそれが着々と上がっていく様子がわかる。

「ムサくんすごい…!カケルくんとハイジくんの言ったとおりだね」

「期待に応えてくれる男だな、ムサは」

「はい。流石です」

「ムサの努力には本当に頭が下がるよ」

その言葉に、カケルくんが顔を上げた。
ハイジくんの言う "努力" の種類の中には、陸上以外のものも含まれているのだと瞬時に理解したような面持ちだった。

「日本に来るまでも来てからも、相当な苦労をしたんでしょうね」

「ああ。生まれ育った国を離れて一人きりだなんて、心細くて堪らなかったろうに」

ムサくん自身の言葉を思い出す。
言語、文化の違いに戸惑い、家族も友達もいないことでホームシックに陥ったと。
そんな不安定な心境の中ここまで頑張って来られたのは、ムサくんのそばにいてくれる人たちの存在があったから。


「ムサくん、言ってたよ。"アオタケのみんなは日本の家族だ" って」


ハイジくんは黒目がちな丸い目を更に少しだけ丸くさせ、「そうか」と穏やかに笑う。
カケルくんも、何だか照れ臭そうに微笑んだ。


家族であり、同じ目標に挑む仲間。
「外国人だから」「留学生だから」といって差別の目で見るような価値観は、アオタケのみんなの中にはない。
竹青荘で培ってきた絆が、ムサくんの心の内にある根っからの強さを、更に強固なものにしたのかもしれない。

「ムサに弱点があるとするなら、自分を過小評価してしまうところだな。双子の自己肯定感を分けてやりたいよ。これだけ素晴らしい走りを見せたんだ。胸を張って威張ったっていいくらいだ」

「本当だね」

ハイジくんが冗談混じりに双子を引き合いに出すものだから、思わず笑ってしまった。



背負った襷は、次の走者、ジョータくんへ。



ムサくんは結果的に7人を抜き、寛政大学は14位まで順位を上げることができた。



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