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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第15章 天下の険




『さあ。17kmを走破してきた選手たちに、六郷橋の傾斜が立ちはだかります』


来た―――!


再びスマホに視線を落とし、画面に集中する。


1区の一番のポイントは、 全長約450mに及ぶこの六郷橋。
東京から神奈川にかけて山なりに架かっている橋だ。

要は、ここから上り坂と下り坂。

今まで平坦な道を走ってきた選手たちがスパートをかけるタイミングでもある。


「上りは嫌いだ」―――練習中の王子くんがよく口にしていた言葉を思い出す。


負けないで、王子くん…!


『動いた!動き出しました!穏やかな旅路に大きな変化。各大学が続々とペースを上げます』


ここが勝負の分かれ道だということを、きっと選手たちは十分に理解している。
1秒でもタイムを縮めて、2区のランナーに襷を託す。
そんな気概が伝わってくるような走りだ。

遂に王子くんは最後尾となる。
カメラは先頭を走る選手に切り替わり、王子くんの様子はわからなくなってしまった。

気持ちが落ち着かない。
そわそわと焦り始める自分がいる。


「王子は必ず辿り着くよ。そして、次に繋ぐ」


ハイジくんの力強い声。


そうだ…これは予選会ではない。
順位が上でなければ次に進めないわけじゃない。
最下位だとしても繋ぐことさえ叶えば、その先でチャンスは生まれる。


王子くんは、チャンスを繋ぐことのできるランナーだ。






「カケルくーん!」

「あれ…?舞さん?」

鶴見中継所に到着してすぐ見つけたのは、この地点の付き添いであるカケルくん。

「神童くんの事情聞いて、こっちに来ることにしたんだ」

「そうですか」

「カケル。ユキから連絡はあったか?」

神童くんの病状についてはハイジくんも相当気がかりなはず。
私たちが移動中だということをわかっているからか、こちらに連絡は入らなかった。
2区で待機していたカケルくんになら、何かしら現状の報告があったかもしれない。


「先程電話をくれましたよ、神童さん」


体を慣らしていたムサくんが、ハイジくんの背後からやって来た。


「僕がテレビに映ったの見たそうです。箱根が終わったら山形に雪を見に行こう、って。そう言ってくれました」



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