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Dear…【BLEACH】

第9章 Don’t Die Away


 救護詰所を出た浮竹は、沙羅の病棟を見上げるとひっそりとため息をもらした。

 浮竹とて沙羅の気持ちは痛いほどにわかっていた。
 あの心優しい娘が仲間の死に心を痛めないわけがない。ましてやその惨劇は彼女が指揮を執る任務の最中に起こってしまったのだ。その抑えようのない怒りと哀しみは彼女自身に向けられるであろうことは容易に想像がついた。

 そう、気づいていた。
 隊士たちを励まし、笑いかけながらも、その笑顔の中に時折暗い影が射すことに。
 実際、倒れた沙羅の容体を四番隊隊長である卯ノ花烈に診てもらった際、彼女は「過労」という診断の他にもうひとつの可能性を告げたのだ。
 「精神的衰弱」と。

 自責の念に駆られながらも隊士を支えなければならない副隊長という肩書は、彼女にどれ程の負担を強いていたのか。
 だが自分はそれを知りながら見て見ぬ振りをした。
 今沙羅が副隊長を辞するようなことがあれば、それこそ隊は大きな支えを失って揺らぐだろう。消沈する隊士たちに活力を与え、再び元の団結力を取り戻すためにはどうあっても沙羅の存在が必要だ。それも、副隊長という隊を先導する立場として。

『隊士たちにこれ以上の不安を与えるわけにはいかない』
 彼女の思いやりを逆手に取った卑怯な言い方だった。こう言えば沙羅は断れないだろうと。
 その思惑は見事に功を奏し、沙羅は笑って辞意を撤回した。そうなるように――仕向けた。

「最低な上官だな、俺は……」

 うわ言のように呟いて、浮竹は自嘲の笑みをこぼした。



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