第13章 Bloom on Twilight
ようやく元の静けさを取り戻した町の片隅で、沙羅は依然として自分に背を向けたまま立っている彼に声をかける。
「ウル……キオラ?」
その存在を確かめるように、弱くか細く紡がれた声。だがそれに返る言葉はひどく冷酷なものだった。
「消えろ」
「え……」
「次に会ったときは敵だと言ったはずだ」
振り返りもせずに突きつけられたのは拒絶の言葉。
夕焼けに映える白が遠く霞んだ。
「ウルキオラ……」
地べたに座りこんだ体勢のまま動かない沙羅には気づかれないように、ウルキオラは押し殺していた息をそっともらす。
「……動けないのなら仲間を呼べ」
今はそう告げるのが精一杯だった。これ以上彼女に近づけば、自分で自分を抑えられる自信がない。
グリムジョーが退いたのを見届けてから再度黒腔を呼びだし、そのまま虚圏へ帰還する。そのつもりだった。
……沙羅がその名を呼ぶまでは。
「――シオン……」
空耳だと、そう思った。彼女がその名を知るはずがないと。
だが振り返ったウルキオラに向けて再び紡がれたのは紛れもなくその名だった。
「紫苑なんでしょ……?」
迷いのない澄んだ瞳を、哀しそうに細める沙羅。
なぜ――
なぜ今になって思い出してしまったんだ。
あのまま全て忘れてしまえばよかったのに。
そうすれば、これ以上おまえの哀しむ顔を見ずに済んだのに。
「答えてよ……」
今にも泣きそうな瞳で見つめてくる沙羅から目を逸らしても、なにが変わるわけでもない。
そしてそんな自分の行動が今なお彼女を深く傷つけているのだという事実も。
だめだ
もうこれ以上は
「だから――」
ウルキオラが小さく発した声に、沙羅は一言も聞きもらすことのないよう耳を澄ました。
もう
……限界だ
「だから来るなと言ったんだ…………」
込みあげる想いを必死に抑えつけていた硝子の格子がバリンと音を立てて決壊し、崩れ落ちた。
振り返った翡翠の瞳は哀しみに歪み、ただ沙羅の姿だけを映していた。
***
《Bloom on Twilight…黄昏に咲き誇る》
次話から過去編に突入するのですが、ドリームノベルでの更新はここまでで一旦停止とさせていただきます。
詳細は作者ニュースにて。