第9章 Don’t Die Away
一方、浮竹が去った病室にひとり残された沙羅はぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。
昨日とは打って変わって快晴が広がる空。
昨夜からの記憶が途切れていることも手伝って、今の沙羅には昨日の出来事がまるで夢のように思えた。
でも。夢じゃない。
ウルキオラが十刃だったことも。
隊士たちを殺した仇であることも。
自分に別れを告げて去っていったことも。
何もかも、夢じゃない。
思い返すと涙があふれそうで首を振った。だめだ、今は考えたくない。
無理に逸らした思考の中で「夢」という単語だけが残る。
「そうだ……あの夢」
浮竹の登場に驚きすっかり忘れていた。
夢の中、自分の名を呼ぶあの声の主は「死ぬな」と言っていた。哀しそうに……「置いて逝くな」と。
途端胸に走った激痛。あのとき、自分は本当に死んでしまうのだと思った。
あのあと夢の中の私は一体どうなってしまったんだろう。
あのまま死んでしまったのかな。『彼』を残して。
そう思うとどうしようもなくいたたまれなくなった。
『彼』はあんなにも私を必要としてくれていたのに。
結局置き去りにしてしまったんだ。
そのとき、ほんの一瞬だけ『彼』の姿が脳裏をかすめた。
……知っている。
私はあなたを知っている。
だが、記憶を手繰る沙羅に再び睡魔が忍び寄る。それに抗う間もなく沙羅は眠りに落ちた。
今度こそ夢のない、静かな眠りの中へ。
***
《Don’t Die Away…君、死すること勿れ(君、辞すること勿れ)》
「死ぬな」「辞めるな」沙羅を追いつめていくふたつの言葉。