第9章 Don’t Die Away
唖然として浮竹を見上げると彼はますます苦笑いを濃くした。
「憶えていないのか? おまえ昨日隊舎で熱出して倒れたんだよ」
「ええっ! 私がですか?」
「ああ。朽木が血相変えて飛びこんできたときは驚いたよ。疲れて眠ったのかと思ったら急に苦しそうに呻きだして、何度揺すっても目を覚まさないと。それですぐに隊舎に行ったんだが、おまえすごい熱が出てて昏睡状態でな。慌ててここに連れてきたってわけだ」
浮竹の話を沙羅は呆気に取られて聞いていた。まさか自分がそんなことになっていようとは思いもしなかった。体調が悪いことすらなんの自覚もなかったのに。
「心配するな、卯ノ花隊長に聞いたらただの過労だって話だ。数日休めば問題ないそうだ。……もう少し自分の身体を労わってやれ」
そう浮竹のいつもの優しい笑顔で言われて、沙羅はほっと息をついた。
突然意識を失うぐらいだからよほどの重病だったのかと懸念したが、どうやらその心配はないようだ。実際手足を動かしてみても、倒れたなんて嘘のように全身すこぶる快調だった。
「すみませんでした……ご心配をおかけして」
いまいち実感が湧かないながらも頭を下げると、浮竹は目尻を緩める。
「いいさ。それよりも早く朽木に知らせてやらないとな」
「ルキアはどこに?」
「一旦家に帰らせた。あいつときたら昨晩からずっとおまえに付きっきりで、ろくに睡眠も取っていないようだったからな」
「そうだったんですか……」
ルキアは昨夜の自分の涙を知っている。きっと並々ならぬ気苦労をかけたに違いない。
きゅっと布団を握りしめて俯く沙羅の頭上で、浮竹は「それに……」と続けた。
「謝らなければならないのは俺のほうだ」
「……え?」
「ここ最近おまえには負担をかけすぎた。倒れるほど無理をしていたのに、それに気づいてやれなかった……これは俺の責任だ」
悔しそうに顔を歪める浮竹に沙羅は慌てて首を振る。
「隊長のせいなんかじゃありません! 私の自己管理が行き届かなかっただけです」
浮竹が責められるべき点などひとつとしてない。全て自分の弱さが招いた結果だ。
そう、全て。