第9章 Don’t Die Away
「はっ……はぁっ……」
白い天井が視界に映り、冷や汗が額を伝い首筋まで流れ落ちる。緊張から解かれた心臓はバクバクと脈打っていた。
「夢……」
そっと胸に手をあてる。大丈夫……もう苦しくない。
安堵の息をもらし、沙羅は夢の中で自分を呼んでいた人物に想いを馳せた。
声しか聞こえない。
顔すらわからない。
けれどとても。
とても大切な人だった――
夢の中とは別の痛みが胸を襲い顔をしかめながら、沙羅はふと目覚めた直後から渦巻いていた違和感の正体に気づいた。
「……どこ? ここ」
見覚えのない白い天井。首を巡らすと、これまた見覚えのない殺風景な部屋。
たった今まで横になっていた寝台から怖々と身体を起こしながら、沙羅は扉一枚隔てた先からひとつの気配が近づくのを感じた。ガラリと扉が開かれ、身構える沙羅の前に現れたのは。
「お、目が覚めたのか。気分はどうだ?」
「隊長!?」
他でもない上官の姿に沙羅は目を丸くする。
「どうしたんですか? あまり出歩くと体に障(さわ)りますよ」
「おいおい。今の自分の状態をわかってて言ってるのか?」
浮竹が苦笑混じりにもらした台詞に、沙羅はようやく今の自分の出で立ちに意識を向けた。
首周りが広めに取られた白い布地の上下。これは負傷して総合救護詰所に運ばれた隊士が身につける、いわゆる患者服だ。更に見覚えのない部屋の隅には点滴台が置かれ、独特の薬品の香りがした。
つまり、ここは言うまでもなく。
「救護詰所? なんで私こんなところに?」
「こらこら暴れるな。まだ病みあがりなんだから」
「……え?」