第1章 ◆ありったけの愛を、君に。 碓氷真澄
「……監督、入りますよ」
「ん……?」
どうやらまた私は寝てしまっていたらしい。
今度は何の夢も見なかった。
そのことに安心しながら、部屋に入ってきた人を見上げる。
「……綴くん…」
「…真澄が体調悪そうだったって言ってたから、臣さんがおかゆ作ってくれたんです。
よかったら食べませんか?」
「……ありがと」
私よりも年下の子たちに心配をかけてしまって、何が総監督なんだろうか。
自嘲気味な乾いた笑いを浮かべながら、綴くんが持ってきてくれたおかゆを受け取る。
口に広がる優しい味に、こわばっていた心がゆっくりと解れていくのを感じた。
「………監督、真澄のこと、どう思ってますか?」
私が食べ終わるタイミングで、綴くんにそう聞かれた。
飲み込んだ唾が、器官に入って咽てしまう。
慌てて綴くんが背中を擦ってくれて、ようやく落ち着く。
「……どう、っていうのは?」
「…アイツ、ずっと監督のこと好きって、伝えてるじゃないですか。
その、……監督も、真澄のこと好きなのかな、って」
「………うん、いい子だよね。優しくて、真っ直ぐで。」
「……」
「けどね、私、もう好きな人作らないって決めてるから」
「………え…」
「おかゆ、ごちそうさま。臣くんにありがとうって伝えて。」
「あの、監督」
「………、おやすみ」
まだ何か言いだけな綴くんの背中を押して無理やり部屋から追い出す。
少し大人気なかった気もするが、これくらいは許して欲しい。
そう、私は好きな人は作らないと決めたんだ。
もうあんな惨めな思いをするのはごめんだから。