第2章 ◆ホワイトデー 皇天馬
「……私が今日買ったマシュマロとクッキーの詰め合わせはね、
マシュマロを返す意味は、貴方が嫌いです。
クッキーは友達の関係でいたい」
「へぇ…。だから井川が準備するホワイトデーの菓子はそういうのが多かったのか」
「井川さんナイス…!!」
どうやらホワイトデーのお返しを準備するのは井川さんの役目らしい。
思わず漏れ出た井川さんに対する褒め言葉が面白くないのか、天馬くんが少しムッとする。
それが子供っぽくて、可愛くて、思わず笑ってしまう。
「…笑うなよ」
「ふふふ、だって今の天馬くん、子供っぽくて可愛かったから」
「……んじゃ、ガキからこんなの貰っても嬉しくないか」
「え」
正面から抱きしめられた、と気付くと同時に首元にひんやりとした感触。
びっくりして下を見れば、可愛らしいデザインのネックレスが下がっていた。
花をかたどったシルバーのモチーフが付いていて、控えめなデザインで、どんな洋服にも合いそう。
普段から付けていても何の違和感もないそれに驚き、天馬くんをみつめれば、少し気まずそうに目線を逸らしながらも教えてくれた。
「……、あの女優とは、これを買いに行ってたんだよ。
ホワイトデーのお返しとか、自分で準備したこともないし、どういうの渡せばいいか分からなかったから、付いてきてもらった。
それが原因で監督を不安にさせたことは、悪かったと思ってる。すまん」
「………」
「…やっぱり、他の女と買いに行ったもんなんて嫌か…?」
「ち、違うの…!!………うれ、しくて…」
「――じゃあ、泣かないでくれ。
俺は、監督の笑った顔が見たい」
天馬くんの優しい手が、頬を伝い流れる涙を掬い取っていく。
その手を取り、そっと握りしめる。
「……ありがとう…、ずっと、大切にする。から」
「……当たり前だろうが。この俺がプレゼントしたものなんだからな」
ああ、いつもの天馬くんだ。
俺様で、偉そうで、素直じゃない。
私が、大好きな天馬くんだ。