第2章 ◆ホワイトデー 皇天馬
こんな、醜い感情も、暗い考えも、天馬くんにだけは知られたくなかった。
嫉妬なんてしない。
何をされても、笑って受け止める。
上辺だけの笑顔を取り繕う。
天馬くんに、嫌われないために、
余裕のある、年上の彼女を演じていたかった。
けれども、そんな化けの皮も、もう限界だった。
分厚い、化けの皮の下を知られて、嫌われる前に、離れてしまいたかった。
「私は、嫉妬だってするし僻んだりもする。
余裕がある様に見えるのはそう見せてるだけでしかない。
……天馬くんが私と不釣り合いなんじゃない。
私が、天馬くんと釣り合わないの。
私は天馬くんが思ってるほど、大人じゃない」
「ッそれでもいい。俺は監督がいい。監督が欲しい!
俺は、大人だからなんて理由で、監督を選んだわけじゃない。
俺が劇団に入ったばっかの頃、俺の苦しみを取り除いてくれた。
失敗したらどうしようって、怖くて、蹲っていた俺を、立ち上がらせてくれた。
あの時、俺は他の女なんて目に入らないくらい、アンタを好きになったんだ。
……それとも、監督は、俺のことなんてもう、嫌いに、なったのか?」
「ッそうじゃない、私も、天馬くんのことが好き。
天馬くんは、いつも偉そうで、不器用で、口が悪くて、誤解されやすくて…」
「……本当は俺のこと嫌いとかじゃないよな…」
「ご、ごめん、違う、そうじゃない…!
そうじゃなくて……何に対しても、真っ直ぐでいられる天馬くんが好き。一緒に、いたい。別れたくない…!」
「……本当、か…?……よかった、監督…」
天馬くんの顔が近付いてくる。
あ、これは、駄目なやつ。目が本気だ。