第2章 ◆ホワイトデー 皇天馬
「………っ彼女と2人で出掛けることを言わなかったのは、……悪かったと、思ってる。
けどそれは、話して監督を不安にさせたくなかっただけで――」
「その気持ちは嬉しいし、有り難いなって思うよ。
それでも、さ、私は一言言って欲しかった。
そうすれば天馬くんの事、信じられたかもしれないけど…。
もう私は、君を信じることは出来ない…。ごめんね」
「っそんなに、俺の事が嫌いになったのか…?」
そんな訳ない。
「俺は本気で監督のことが好きだ、ムシのいい話だと分かっていても……信じて、ほしいんだ…」
私だって、信じたい。
「なぁ、どうしたらいい…?監督からしたら、俺はまだまだガキで、不釣り合いだと思う…。
けど、またアンタに好きになってもらう為なら何だってする。だから…ッ!」
違う。
不釣り合いなのは、私の方。
「……私だって、別れたくないよ…」
本音がぽろりと溢れた。
あふれ出したそれは、止まらない。
「……天馬くんの隣に居るべきは、私じゃない。
天馬くんは人気の俳優さんで、私は天馬くんが所属する劇団の総監督でしかなくて。
立場も、何もかもが違いすぎる私なんかよりも、歳も近くて立場も同じ彼女のほうが、全然天馬くんとお似合いで。
あの報道がされた時、私とは住んでる世界は違うって思い知らされたみたいで、苦しくて、だから――…だから、私は、私が楽になるために、別れたい…」
ああ、そうだ。
私が彼から離れたい理由はこれなんだ。
別に私に黙って2人で出掛けたことが悲しかったんじゃない。
あの報道を理由にして、体良く別れたかっただけだ。
以前から感じていた、苦しみ。
TVで見る彼の隣にはいつだって綺麗な女性が並んでいる。
彼との釣り合いを取るかのように。
その度に感じていた。
天馬くんに触らないで欲しいという嫉妬を。
その度に考えていた。
天馬くんだって、本当は彼女たちみたいに綺麗な子と付き合いたいんじゃないのかって。
その度に後悔した。
告白されたあの時に、年上への憧れと好意を、履き違えてるだけだと言って、突き放せばよかったと。