第2章 ◆ホワイトデー 皇天馬
「ただいま…」
皆寝静まった夜中すぎ。
天馬くんが帰ってきた。
どうやらマスコミが散るのを待っていたら遅くなってしまったらしい。
談話室のソファで丸まる様に座っていた私を見付けると、気まずそうにしながらも近づいてくる。
「……監督…」
「……おかえり、天馬くん」
「………。…報道に、ついてだけど。……まず、謝らせてほしい。
俺の軽率な行動で、監督のこと、不安にさせた。
けど信じて欲しい。
俺は彼女に対して恋愛感情なんて持っていないし、相手の女優も同じだ。俺に対して特別な感情は持っていない」
あくまでも冷静に、真摯に謝ってくる彼と、これからどうするかとか、色々と話し合うことはある。
そう分かっているのに、彼と違い、自分は冷静になれていなかった。
彼と話し合ったとしても、きっと私は感情のままに詰め寄ってしまう。
このまま話し合ってもなぁ…
そう思って顔を上げれば、不安の色を滲ませた彼と目が合った。
「……そんな不安そうな顔しなくたって、別れ話なんてしないよ」
咄嗟に吐いた答えに、心の中で、今日のところは、と付け加える。
我ながらズルい言葉だと思った。
答えを求める相手にハッキリと答えを与えないなんて。
こんな言葉で、幼気な彼を惑わせる。
「…ほら、今日はもう疲れちゃったでしょ。
お風呂に入って早く寝よ、……おやすみ…」
「……おやすみ」