第1章 ◆ありったけの愛を、君に。 碓氷真澄
「真澄くん、ちょっと、いいかな?」
「……なに」
あれから一日中寝て、すっかり熱は下がったようだったけど、大事を取って次の日もお休みさせた。
今日は何人か残っているが、誰にでも聞かせていいような内容でも無い…。
「……今日は天気もいいし、中庭で少し話そうか。」
「………」
「……綴くんから、聞いた?好きな人を作るつもりはない、って」
私の問いかけに、コクリと小さく頷く。
それにそっか、とだけ返して、さあどこから話そうかと考える。
しかし、幾ら考えても上手い話の始め方は思い付かなかったので、どうにでもなれと、ヤケクソ混じりに話し始めた。
「……私ね、2人と付き合ってたんだ。
1人は昔所属してた劇団の仲間。友達の延長線で付き合って、自然と別れた。
…もう1人は、友達の紹介で付き合い始めた。
私、この人のことは本当に好きになった。
この人となら結婚したいって、本気で思ってた」
真澄くんの方をチラリと横目に伺えば、傷付いた様な表情をうかべながらも、静かに聞いてくれていた。
それを有難く思いながら、話を続けた。
「……付き合って、何年だったかなぁ…、2年?かな。
半同棲みたいな感じになってて、このままいけば結婚も出来るかなとか、考えてた。
その時だね。相手に、別れてほしいって言われたの。
"彼女"に子供が出来たって、言われた。
私は彼女じゃないのって。聞いたら、さ。
私、浮気相手だったらしいの。
笑っちゃうよね。2年間、全然気付かなかった。
好きだって、愛してるって。その言葉を馬鹿みたいに素直に信じてた。
私もって、返して。幸せそうに笑って。……本当に、馬鹿みたいな日々だった。
また、あんな思いをするくらいなら、好きな人は作りたくないなって」
「俺は、そんな男とは違う!
俺は本気でアンタの事が好きだ、愛して――」
「……真澄くんはそうやって、いつも私に、好きだって、愛してるって、伝えてくれるよね。
けど私は、その度に耳を塞ぎたくなる。
私は信じたくない。もう傷付きたくない。
そんなエゴの塊みたいな感情ばっかり思い浮かんじゃう。
そんな感情で、君を傷つけそうになる。
…真澄くんには、私なんかよりもずっといい人がいるよ。
だから――」