第1章 出会いと始まり
『そうですねぇ…冬は寒過ぎるから嫌いだなぁ。』
少女も寒さ故、肩を強ばらせ乍歩く。
少女の家も近くなってきた頃、何やら後ろに不穏な影がある事に二人は気付く。
『先生。何か居るね。』
小さい声でそう少女が告げると、綾辻は無言で首を縦に振った。
「少し、走るか?それとも────」
『相手をした方が早いでしょう。』
綾辻の言葉を繋ぐように少女は云った。
二人とも思案していた事は同じだったのだろう。
『そこで何をして居らっしゃるのですか?
────中原様御一行様?』
少女がゆっくりと告げながら後ろを振り返ると、黒服の男等と中也が居た。
「よォ。解ってンじゃねェか。
手前、とっとと首領の処に戻れよ。」
挑発する様に中也は人さし指を振る。
『真逆。誰が戻るなんて一言でも言いましたか?面倒臭いですね、あの人も。』
盛大な溜息を付く少女。
「ンじゃァ太宰の処に行け。」
『…っ、何故太宰様なのです?』
"太宰"の名が出た時に少女が微かに反応したのを中也は見逃さなかった。
「手前、太宰の事知ってたンだろ?」
じりじりと距離を詰める中也。
動揺を隠せず脚が竦んで動けない少女。
「………行こう。」
今迄一言も発さなかった綾辻が突如少女の手を引き歩き出す。
『せ、先生?』
少女も困惑した表情で綾辻を見上げる。
「君が辛そうな顔をするのをもう見たくはない。だから行こう。」
何時もの淡白な彼からは想像もつかない提案だった。
少女ははっとしたように唇を噛み締め、こくりと無言で頷いた。
『先生、行こう。』
少女が瞬時に作り出した鏡の中に彼等は消えていった。
残された中也は糞っ、と悪態を付き乍も的確に部下に指示を出した。
「手前等はもう良いから下がれ。」
中也の頭の中には様々な疑問と憶測とが飛び交っていた────。
◇◇◇◇
『先生、ありがとう。
ここ迄来られれば大丈夫だと思う、よ。』
綾辻は依然として少女の腕を引っ張っていた。
「はぁ…矢張り厄介な連中だな。ポートマフィアは。そんな組織に君は居たのか。」
綾辻は感心している様にも聞こえる口調で少女に問うた。
『それが居たんですよね。可笑しな事に。私もそんな過去は抹消したいくらいです。』
少女は自らの過去を嘲笑うかの様に話す。