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鏡薔薇【文豪ストレイドッグス】

第1章 出会いと始まり




「……な、何が起こったんですか?!」

辻村が腰を抜かして叫ぶ。

『私の異能力の一種。大鏡。
脳内で浮かべた場所まで鏡に映した物、人を転送することが出来るんです。』


「い、一種?ってことは、残りも幾つかあるんですか?」

辻村は興味津々な様で前傾姿勢で少女の話の続きを待つ。

『ありますよ。残りは今鏡、水鏡、増鏡。どれも中々魅力的な能力です。』

少女は少し照れ臭そうに頬を掻いた。


「見せてくれ、と云ったら見せてくれるか?」

綾辻も興味があるようで口角が少々上がっている。


『……解りました、良いですよ。

異能力───四鏡、増鏡』

すると、少女の姿が幾つも現れた。


「ほぉ……分身…の様なもの、か?」

綾辻も顎を軽く摩り乍、その分身に触れる。


『えぇ。そして、触っても消えないから、どれが本物かは…解りにくくなっています』

そう云って少女はふふっと笑った。


「わ、笑った顔…綺麗ですね………」

辻村は恍惚とした顔で少女を見つめた。


『……そ、そう…かな?』

驚きが隠せないのか、目を見開いて云った。


「その位の口調が一番良い。」

綾辻は少女の口調が崩れた隙に空かさず云う。


『…そ、う?でも…子供扱いは嫌なんだけどなぁ……』

照れ臭そうだが、口調が徐々に見た目の歳相応になっていく。


「まぁ君の見た目なら子供扱いされるだろうが…良いんじゃないか?それを楽しめば。」

綾辻はくつくつと喉を鳴らして笑う。


先刻迄の状況は唯の悪い夢だったかの様に、彼等の辺りは温かい空気が漂っていた──。




◇◇◇◇


「どうする。帰るなら送るぞ。」

日も暮れて夕焼けがヨコハマの街を照らしだした頃、静かに綾辻はそう告げた。


『…そろそろお暇させて頂こうかな…。長居してしまって…ごめんなさい。』

少女は窓の外を神妙な面持ちで眺め乍云った。


「大丈夫ですよ!また来てください!」

辻村は同性の者と話すのが楽しかったのか、一段と顔を明るくして少女に微笑みかけた。


『ありがとう。また来る…。』

まだ喋り方の癖が抜けないのだろう。語尾がしゅんと沈むように消える。


「じゃあ行くぞ。」

綾辻は外套を一枚羽織り、外へ足を踏み出した。



「はー、もう肌寒いな。もう直ぐ冬が来るな。」

外套を冷たい風が通り抜ける。


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