第8章 三叉路の真ん中で
『…わ、私は、迷子じゃない。
うん、迷子じゃない。』
任務を終え、綾辻の所へ向かう途中、奏音は道の真ん中で足を止めていた。
『仕方無い。これの出番だ。
異能力──四鏡、大鏡』
そう云って奏音は脳内に綾辻のいる所を思い浮かべた。
『ん????』
「…何故君が今此処に居る。」
奏音は少しずつ後退る。
『あーっと……
異能で移動したら……ね。』
にこりと笑って見せるが、綾辻は眉一つ動かさない。
「それにしても此処に居合わせるのもな…」
そう云って綾辻は辺りを見回す。
『な、何故綾辻先生は此処───殺人現場なんかに居るんです?』
「仕事だ、し、ご、と。」
『あぁ、本職の。』
「それ以外に仕事はない。」
綾辻の的確な突っ込みにより会話は終了する。
暫くの沈黙の後、奏音が口を開く。
『あの……そこに居るのは誰ですか?』
奏音は不意に殺人現場である廃ビルの一本の柱の方を向いていた。
「君、鋭いね。良い感覚してる。」
そう云って柱から出てきたのは、黒の学生服に学生帽を被った、如何にも中学生らしい少年だった。
『…貴方は誰です?』
「ん?僕?良くぞ聞いてくれたね。
僕は江戸川乱歩。世界一の名探偵さ!
僕の超推理に掛かれば事件なんて一瞬で解決してしまうよ!」
自信満々に云い放つ彼は、相当の腕前なのか、はたまた自意識過剰なのか。
「江戸川乱歩…聞いた事はあるな。
ところでそんな小僧が何の用だ。此処は俺の事件現場だ。」
「嫌だね。譲らないよ。君が事件を解決すると人が死ぬ。そうだろう?」
「…良くご存知で。」
『…私戻ろうかな。』
「用があったんじゃ無いのか。
警察が来たら直ぐ済む。そしたら用を聞いてやる。」
有無を云わせぬ云い様に奏音も諦める。
「君……良く見たら、あぁ、そうか。」
不意に乱歩が奏音の顔を覗き込み、自己完結してしまった。
『え?何があぁ、そうか。なんですか?』
「んー?まだ秘密ー。
でも君は今危険な所に足を踏み入れようとしている。それで、真実を知りたがってる。でもね、真実は知らなくても良い事は沢山あるんだよ。」
そう云い残して乱歩は綾辻の方へ歩いて行ってしまった。