第8章 三叉路の真ん中で
「奏音さん。済みません、此方の車に乗って頂いても…」
龍之介は申し訳なさそうに奏音に云う。
『ありがとう。じゃあ樋口ちゃんも行こ?』
「あ、私は先輩が乗ってから乗るので、お先に行っていて下さい!」
「樋口。奏音さんの荷物を。」
「はい!」
樋口は芥川が何故それ程迄に奏音の事を気にするのか不思議に思い乍も、指示に従った。
「あの…芥川先輩と、奏音さんってどんな関係何ですか、?」
『あー、私が昔ポートマフィアに居た時に部下だったのよ。ほんとに少ししか接して無いけどね。』
「ですが、貴女はとても根気良く面倒を見て下さった。僕はその恩を今でも忘れていない。」
『もぉ…あんな位普通なのに……
たった3ヶ月付きっきりで教えてただけよ?』
「………ポートマフィアで3ヶ月付きっきりはかなりだと。芥川先輩の恩師は太宰幹部だと認識してましたが…」
『あぁ、治もそうだけど、治が放り出した教育を私が引き受けたからね。』
「成程〜。そんな過去をお持ちだったんですね。」
『樋口ちゃんも今度銃なら教えてあげられるよ?立原との約束もあるから丁度良いし。』
「良いんですか?!是非お願いします!」
樋口は目を煌めかせ乍奏音の両手を握った。
ヨコハマ市内から少し外れた港に車は止まった。
『うわぁ…海以外に見事に何も無いんだね。
龍之介、何か首領からの留意点はある?』
「はい。殲滅せよ、とのことです。」
『船上での戦いになるかな?
気を付けてね。四方八方に意識向けてないと足元救われるよ。』
数多の現場を経験してきた奏音の言葉にはそれなりの重みがあり、部下らの背筋が伸びる。
『海かぁ。見てるだけで寒くなるねぇ。私寒いの嫌いなのに…』
そう云って外套の上から身体を摩る。
「海沿いは潮風が吹き、塩が傷口に悪い。早急に済ませましょう。」
『あはは。龍之介は海嫌いだものね。』
「然り。海を見ていると何故か…」
『虚しくなる?』
芥川は無言で頷いた。