第8章 三叉路の真ん中で
『そうだよ。だから、治の優しさが辛かった。
…人から優しくされるのが、辛かった。私だけが幸せになって良い訳が無いから。私は……幸せになっちゃいけない、から。』
奏音の目から一筋の泪が溢れ、それを中也が優しく指で拭う。
「良いンだよ。手前は幸せになれば。
その…柚音って奴には会った事がねェから詳しい事は解らねェが、きっと自分の姉妹に、幸せになって欲しいって願わねェ奴は居ねェんじゃねェの?」
『そう、なのかな…柚音、、私、幸せになって良いの、?』
「当たり前じゃあないか。柚音ちゃんだってそれを望んでいるのだよ。」
ノックもせずに部屋に入ってくるのは太宰だ。
『治……』
「だ、太宰手前…入るタイミング違ぇだろ。」
中也に至っては呆れて頭を抱えていた。
「奏音。君は過去に囚われ過ぎなのだよ。
柚音ちゃんは常々こう云っていたのだよ。
"お姉ちゃんは神経質だから、私が代われば良かった。" と。」
『え………?』
「君の過去を知った柚音ちゃんは私の所に来たのだよ。そしてこう云ったんだ。
"どうか、お姉ちゃんの心の傷を癒してあげて下さい。私にはお姉ちゃんと対等に向き合う資格がない。足の怪我も態とだし。だから…太宰さん。お願いします。"
ってね。」
『柚音ッッ……』
「……来いよ。俺の胸貸してやるから、泪は我慢するもんじゃねェぞ。」
太宰と中也の優しさが痛い程奏音に刺さる。だが、その痛みは過去に感じた鬱陶しい痛みでは無く、心地よく、優しい痛みだった。
『私、矢ッ張り業と有島さんを探す。
でも、最優先はポートマフィア。もう、二度と大好きな人達を失わない為に。』
そう云って奏音は太宰と中也に抱きついた。
「…そうし給え。私は何時でも此処にいる。君が辛くなったら私も…偶に中也も話を聞くから。偶に、ね。」
「あ?俺も何時だって話聞くぜ。太宰よりも俺のが話しやすいだろ?」
そう云った中也は口角がニヤリと上がっていた。