第8章 三叉路の真ん中で
「走れ!異能を持たない奴から順にだ!」
「危ないっ!…気を付けるんじゃぞ。」
有島と紅葉は本部ビルの出入口の整理をしていた。
「業、後で合流するよ。
この事件、何だか可笑しい。」
有島は業と擦れ違う際、そう小さな声で告げ、業も軽く頷いた。
「お姉ちゃん!!出て来て!!お姉ちゃんったら!!」
一方柚音は全く部屋から出て来る気配のない奏音の部屋の戸を叩く。
『良いの。私はここに居るから。』
やっとの事で聞こえた声は、絞り出した様な声だった。
「何か莫迦な事云ってるの?!
お姉ちゃんと生きなきゃ私は……!!」
そう云って柚音は部屋の戸を蹴り出す。
『辞めてって云ってるのよ!!!』
声と同時に、扉の傍に鏡で出来た奏音が現れる。
「………異能力?」
『だから何?私は危なくても異能で逃げられるの。柚音は無理なんだから逃げてよっ、!!』
何時もの様子と全く違う奏音に戸惑い乍も、柚音の心の中にはふつふつと沸き上がる一つの感情があった。
「いい加減にしてよ!!
これだから異能力者は嫌なのよ!異能を持たない者を卑下して、さも自分は人間たちの頂に居る気分になってる!
私が異能を持ってないから部屋に入れないとでも思ったの?」
そう云って部屋の戸を蹴り、奏音の視界に入った柚音の顔は真っ赤に染まり、怒りを顕にしていた。
『今は、駄目なんだって…!!!』
奏音は苦しそうに胸を押さえて叫ぶ。
『異能力───四鏡、大鏡!』
奏音が異能を発動させ、柚音を移動させる場所を想像し始める。
『……業、有島さん。柚音を頼みます。』
そう小さな声で呟き、異能を発動させた。
◇◇◇◇
「矢ッ張り可笑しいね。部屋のあちらこちらに逃げ道が確実に用意されてる。」
有島は業と共に本部ビルの地図を見乍話していた。
「あ、此処。何故丸が打って……」
業が地図上の落書きに気付く。
「………っ!
此処、奏音の部屋だ。」
有島が何かに取り憑かれた様に立ち上がり、業の手を引く。
その時だった。