第6章 過去に押し流されて
「辞めないか。こんな夜中にそんな下品な事は。」
─────突如鴎外が現れたのだ。
「た、助けてッッ…!!」
柚音は力の限りに叫ぶ。
その声にこくりと頷き、鴎外は男の正面へと瞬時に詰め寄る。
そしてメスを首元に押し当て、
「その子を離しなさい。さもないと……解るね?」
低くドスの効いた声でそう告げた。
男は震え上がり、柚音を放り投げてその場から足早に立ち去った。
放り投げ出された柚音を無事に抱き抱え、鴎外は微笑む。
「大丈夫だったかい?」
先刻の男とは全く違う雰囲気に安心した柚音は
「大丈夫です。ありがとうございます!」
そう云ってぺこりと会釈をした。
「帰る家はあるのかい?」
鴎外は彼女の足首の傷の手当をすべく、診療所の方へと向かう。
「それが……無いんです。」
「ほぅ?それは…何故だい?」
「お姉ちゃんと私は良く解らない所に連れて来られたから…」
「成程、ね。」
鴎外は最近話題になっている、小児大量誘拐事件の被害者だと目星を附けた。
「君が…柚音ちゃんが覚悟を決めるなら、お姉ちゃんを助ける為に強くなる方法を私はあげるよ?」
宥めるような声でそう告げる鴎外の目は笑っていなかった。
この数分の内に、彼女の才能を見出したのだろうか。本気で勧誘している様に見えた。
「お姉ちゃんを、助ける…
ほんとにそんな事が、?」
「あぁ。出来るとも。君が……
ポートマフィアに来れば、ね。」
そう云って鴎外はニヤリと口角を上げた。