第6章 過去に押し流されて
「ねぇ君。」
去り際に、太宰が奏音の肩を掴む。
「……後で私も話したい事があるから、私の執務室に来てくれないかい?」
『え、あ…お、お父様……ッ、首領が許可を下されば行けます…。』
いきなりな事で奏音は狼狽え乍答える。
「解った。じゃあ森さんには許可を貰っておくから。宜しくね。」
そう残して太宰は消えて行った。
「…お姉ちゃん?行かないの??」
少し前を歩いていた紅葉と柚音が後ろを振り返る。
『今行く!』
そう云って奏音は走り出した。
「にしても吃驚だよ〜!お姉ちゃんがポートマフィアに居るだなんて。」
柚音は先刻とは打って変わって朗らかな笑顔を見せる。
『私も吃驚だよ。てっきり柚音は……』
そこ迄云って言葉を詰まらせる。
「そうだよね。私もここ迄生きて居られるのが奇跡みたいな物だもん。
あの日、首領に拾って貰ってなかったら、ね。」
そう前置きして、柚音は奏音と別れた後の事を話し始めた。
◆◆◆◆
「お前…足を怪我しているのか。
んじゃあ辞めだな。次!」
柚音は足首に少し傷があった為、飛ばされる事が決定した。
数名の男が、飛ばしが決まった子供たちを車である場所───ヨコハマの中心街まで運ぶ。
「……どうしよう。」
当時四,五歳だった柚音は良く解らぬ場所に一人放り出される。
少しふらふらと歩いて居ると、一人の男が近寄ってきた。
「お嬢ちゃん、一人?」
「うんっ……お姉ちゃんとはぐれちゃって…」
「じゃあ叔父ちゃんの家においで?ちゃんと養ってあげるから。」
そう云う男の息ははぁはぁと上がり、頬は紅潮していた。
「…良い、大丈夫。」
危険だと察知した柚音が駆け出そうとしたその時だった。
「逃がさないよぉ〜?」
そう云って男は柚音のお腹を抱き抱える。
「ひやァッ…!」
驚いて声を出すと、静かにしろッ!と男はきつく睨み、柚音の口を自らの口で塞ぐ。
「…んッ………ッゥ…」
「矢ッ張り幼女の唇は柔らけぇなぁ?」
下品な顔をして男は薄笑う。
もう一度唇を重ねようとした時だった。