第1章 出会いと始まり
「リンタロウが気持ち悪いからよ。ねぇ?」
エリスから同意を求められても眉一つ動かさぬ少女。彼女の瞳からは光が微塵も感じられ無かった───。
『…失礼するわ。』
少女が右手を前に翳すと、空かさず太宰が少女の肩を掴む。
が、少女は鏡の中に一瞬の内に消えてしまった。
「は……?手前の異能無効化が効かなかッた、ってことかよ…?」
戸惑いが隠せない中也が、太宰や鷗外に返答を求める様に顔を向ける。
「…その様だね。先刻彼女の異能で移動するために"飛ばしていた"私の異能、まだ返してくれていないみたいだね。」
何もかもを見透かした様に太宰は笑みを浮かべた────。
◆◆◆◆
『……面倒な人達だった…』
ぽつりと呟いた少女は綺麗に整えられた部屋の中に居た。
「……珍しい客人だ。どうした?」
淡い茶色の日光避眼鏡をし、パイプを吹かした男性が目を見開く。
『同じ特一級危険異能者の人に逢いたくて。』
少女は少し笑みを浮かべ、手を差し出した。
「まぁ、確かに俺等と対等に渡り合える者は数少ないからな。」
少女の手に応じ、一時中断していた紙弄りを始める男性。
『……綾辻先生。お話伺って貰えません?』
そう告げた少女の頬は少し紅潮していた。
「珍しい。君から物を頼むなんて。いいだろう。面白い話が聞けそうだ。」
綾辻は紙弄りの手を止め、少女を向かい掛けのソファへと誘導する。
「そうだ。紅茶か珈琲、どちらがいい?」
給湯室に向かう様子一つせずに尋ねる。
『……紅茶。砂糖とミルクもお願いします。』
少し迷った挙句、少女は紅茶を頼んだ。
「…だそうだ。辻村君、頼んだよ。」
綾辻は軽く右手を振り上げる。
すると、物陰から一人の女性が現れた。
「綾辻先生、人遣いが荒すぎです。
…っ……かしこまりました!」
少々乱暴に給湯室の扉を開け、準備を始める辻村。
「綾辻先生は何時もの珈琲で良いですか?」
少し顔を覗かせて辻村が問う。
「あぁ。」
短い返事で応じる綾辻。
このやり取りには慣れて居るのだろう。
無駄な動作は一つも無かった。