第5章 追憶と過去
数十分経った頃だろうか、奏音の身体を揺する人が居た。
「僕だよ、有島。一寸話があるから、僕の手を握って。
で、絶対に喋らないで。」
有島は外の番人を気にし乍、こっそりと耳打ちをする。
奏音は無言でこくこくと頷き、云われた通り有島の手を握る。
すると、有島は奏音の手を引き乍、鉄格子をものともせずに通り抜け、番人の目の前を通って行く。
が、番人らは全く気付かない。
先日有島やケイと話していた部屋まで来ると、指を鳴らした。
「ん、もう喋っても良いよ。」
『あの、なんで黒さんたちは気付かなかったんですか?』
「黒、?あぁ、番人たちね?
それは僕の異能の所為。僕の異能は幻想。
端的に云えば、僕が触れたものや、目に見えているものを他の人からは見えなくする事が出来る。」
そう云って有島は得意気に笑う。
『それが異能力、なんですね。』
奏音は頭の中で異能のイメージが固まったらしく、少しすっきりした様な顔をしていた。
「一寸待っててね。ケイくんが業を連れて来るから。
四人揃ったら話を始めよう。」
この時、奏音はあくまで直感で、有島は悪い人では無いのでは、と思った。
「来たよ〜う。遅くなってごめんよ〜!」
ケイが陽気な声でそう云い乍部屋に入ってくる。
勿論後ろには業もいた。
『……え、?ケイさんって、女の人だったんですか、?!』
そう、この日ケイはシンプルな黒いワンピースを着ていたのだ。
「うーん…おいら、女でも男でもないのさ。
ほら、あるじゃん?性別不詳って。おいらの場合はそれなのさ!
あ、でも、ケイくんって呼ばれる方が好きだよ〜」
そう云ってケイははにかんだ。