第4章 微睡みから醒めて
中也は更に奏音をキツく抱き締めて云う。
「俺は、何処にも行かねェ。
手前を置いて、何処かに消える事はしねェ。
そこは…安心して信じてくれよ。」
暖かな太陽の光を背に浴び乍奏音は中也の暖かな言葉を噛み締めていた────。
◇◇◇◇
「……え。」
朝になり、太宰が目を覚ますといきなり目にした光景に言葉を失う。
「何で、奏音………?
私は、君に捨てられたのかい、?」
覚束無い足取りで寝台から降り様とするが、動揺で上手く歩けない。
「柚音ちゃんみたいにまた誰かを失うなんて考えられない。奏音、君まで私の傍から消えないでくれ給えよ………」
すると、寝室の扉が開く。
『お、治?何やって……』
奏音が目にしたのは、微かに目を赤くし、地べたに転がっている太宰だった。
「奏音、?ほんとに奏音なのだよね?」
『当たり前でしょ?
ご飯出来たから下の階おいで。朝ご飯食べよ。』
奏音の存在を確かめる様に太宰は彼女の頬、肩、腕等、身体をぺたぺたと触ってゆく。
『一寸、治さ〜ん?どうしました?』
状況が理解出来ない奏音はくすくす笑い乍太宰を窘める。
『まだ寝惚けてるの~?
昨日割と早めに寝台に入ってたと思ったんだけどな…』
「奏音は、私を置いて行かないで…」
珍しく弱気な太宰の発言に驚く奏音。
だが直ぐに優しそうに微笑んで、
『解ってる。解ってるから。
治と別れたのは嫌いになったからでは無いし、治の傍から離れようと思ったからじゃないよ。
唯、治を巻き込みたく無かっただーけ。ね?安心してよ。』
そう云って太宰の頭を撫でる。
"大丈夫。大丈夫。"
奏音は子供をあやすみたいにそう云い聞かせた。
まるで、自分にも云い聞かせるかの様に。
『さてと。ご飯を食べるよ!それで元気だそう!』
そう云って奏音は階段を駆け下りて行った。
「……置いてなんて行かせない。
奏音は、私といるべきなのだから。」
太宰の呟きは誰に聞かれることも無く、宙に消えていった。