第4章 微睡みから醒めて
「手前が太宰と別れた後なのは俺も知ってる。」
中也の言葉に驚きを隠せない奏音。
そんなものはお構い無しに話は続く。
「今云うのがどれだけ狡いかなんてのも、百も承知だ。でも、それでも俺は手前が好きだ。
今直ぐに返事が欲しいとも云わねェ。
手前の中で整理がついて、冷静に判断出来たら云ってくれ。また、俺の口から云うから。」
『い、何時になるか解らない、のに?』
奏音は泪で頬を濡らしていた。
彼女の手には負えない程の多量な幸せ。
幸せのキャパオーバーだ。
「あァ、何時まででも待ってやる。
だがそれ迄は俺も手前に少しでも俺の良さを知って貰うためにアピールしていくからな?」
意地悪な表情を浮かべて笑う中也。
『…っふふっ、ありがとう、中也。
私も、もっと、中也のこと知りたいかな。』
奏音の顔にやっと笑顔が戻る。
「…泪で顔崩れてるのに可愛いんだな。」
中也の呟きが奏音の耳に入る。
『ん?一言余分だった気がするんだけど?中也くん?』
此方もまた意地悪な表情を浮かべる。
そして、数秒見詰めあって、同時に吹き出す。
「…はぁ…笑いが止まらねェ。」
『何で人の顔見詰めて笑うの~~!』
「ンなッ…云ってる手前も笑ってただろうが!」
幸せな会話を二人は噛み締め乍続ける。
死と隣り合わせな世界に身を置く二人にとって、何も気にせず目の前のことに没頭できる時間は貴重なのだ。
「さてと。帰るか。太宰も心配してるんじゃねェか?」
『…怒られる…かも。』
「かもな。可能性は十分あるだろ。
まぁ…そン時は一緒に怒られてやるよ。」
中也はそう云って奏音の頭をくしゃくしゃと撫でる。
『帰ろっか。
異能力──四鏡、大鏡』
奏音の異能で、二人は一瞬で姿を消した。