第1章 出会いと始まり
『五月蝿いです。江戸雀は死にますよ。
はぁ……これだから異能特務課の頭のお堅い連中の相手は苦手なのです。』
「それは…ポートマフィアでは、でしょう?
しかも異能特務課内で僕は頭の柔らかい方ですよ。」
皮肉のキャッチボールの様な彼らの会話は途切れる事を知らない。
『…出掛けてくる。』
「流石にそれは許可出来かねます。」
青年の顔に焦りの表情が浮かび始める。
『…焦っちゃって。
まぁ……
死ぬ迄には戻るわ。』
そう告げて少女はその場を後にした。
◇◇◇◇
『太宰様、中原様。』
ひらりと一枚の葉が落つるかの如くその場に現れた少女に目が離せない太宰と中也。
「驚いた。君から来てくれるなんて。」
本当に驚いた様な声を上げる太宰。
『面倒なのは嫌なので。
それで?私はどうすれば宜しいですか?』
「…私たちと来てくれ給え。」
目を伏せがちにして太宰が答える。
お互い何かを云った訳では無いのに、発する圧だけで互いに牽制している。
『仰せのままに。
……太宰様はどのように本部までお戻りになられますか?』
小首を傾げて聞く少女に目を見開く中也。
「…参ったな。君の異能、私には使えないのかい?」
『残念ながら。
あ、ご安心下さい。中原様には使えますので。』
そう云い中也に微笑み掛けるその姿はまるで少女の歳とは掛け離れた振る舞いだった。
「あ、あァ。」
呆気に取られていた中也は軽い返事を返す事しか出来なかった。
「私も君の異能で楽に移動したいのだけど。」
珍しく駄々を捏ねる太宰。
その様子を見て少し微笑み乍も嫌そうな少女。
この二人は本当に初対面なのだろうか。
幾つもの疑問が中也の頭の中を占める。
『一つだけ…一つだけ方法は御座います。』
「勿体振らず教えてくれ給えよ!」
目を輝かせて訊ねる太宰。
『取り敢えずは太宰様の異能を飛ばします。
唯…この方法を使うには、中原様のご協力が
不可欠です。お願い出来ますでしょうか?』
「…糞っ。面倒くせェ。とっとと済ませるぞ。」
半ば強引に中也の同意を得た二人は何やら準備をしだす。
少女が目の前に出現させたのは大きな姿見鏡二枚だ。
「此れ、何に使うんだよ。」
不思議そうに鏡を見る中也。