第1章 出会いと始まり
「おい。奏音、一寸。」
奏音が部屋を出るか出ないかの所で中也は彼女に声を掛けた。
『ん?どうしたんです?』
「先ず、時々出てくる敬語辞めろ。
あと…
太宰が鬱陶しかったら俺の部屋来い。
何時でも開けておいてやるから。」
不器用な中也なりの気遣いだろう。奏音にもそれは伝わったらしく…
『ありがとう中也。頼らせてもらうね。』
そう云って奏音は微笑んだ。
「奏音ちゃん?早く来ないと置いていってしまうよ?」
彼女が後ろに着いて無いことに気付いた太宰が声を掛ける。
『太宰さん、すみません。今行きます。』
奏音は急ぎ足で太宰の方へと走っていった。
部屋に残された中也は、自分との対応とは打って変わって、太宰には敬語を使っていた奏音を見て、喜びを隠しきれないでいた。
「彼奴、あんな可愛いとこあンのかよ…」
荒々しく頭を掻き回した後、鍵は掛けずに寝台に潜り込んだ。
◇◇◇◇
─────処変わって太宰の執務室。
「……所で…先刻中也と何を話していたんだい?」
太宰は部屋に入るや否や、奏音を詰問していた。
『敬語辞めてって話だよ。』
奏音は太宰の手からするりと逃げ、寝支度を始める。
「本当にそれだけかい?私は…心配で仕方が無い。また、大切なモノを失った君を…」
『そこ迄にしてッ!!!
…もう、もう柚音の事を思い出させないで!
少し位は覚悟して来たのに、太宰さんがこんな様じゃ無理じゃんッ!!
せめて、せめて太宰さんくらいは、普通に…!』
普段は冷静沈着で感情を露にしなかった奏音が感情を爆発させる。
「……悪かった。でも、
柚音ちゃんの事は忘れちゃ駄目だ。
死んだ人は、生きてる人の心の中でしか生きられない。」
奏音の気迫に押され、少し項垂れ乍ぼそぼそと太宰はそう告げた。
『ごめんなさい。私も言い過ぎちゃって…。
まだ情緒が不安定で。ああは云ったけど私も怖いの。
もし、またみんなが…』
奏音が言い終わる前に言葉を塞ぐ様に太宰は彼女をキツく抱き締めた。