第11章 真実と虚偽の狭間で
「真逆、彼が死んでいただなんて…」
流石に太宰の頭も追い付かないらしく、目頭を押さえて蹲る。
『ケイさん…ケイさんを探せば真相が…』
ふらふらと歩き出した奏音を中也が抱き留める。
「そのふらふらな足で何処行くんだ。
辞めておけ。いつかは連れて行ってやるから。」
優しい声で喋っていたが、中也の目は優しくなかった。
鋭く奏音を見詰める。
『解った。今は辞めておく。』
奏音も自分の精神状態が不安定な事に気付いてはいたので、無茶するのは辞めたようだった。
まるで触れたら粉々に砕けてしまいそうな。
はたまた少しでも揺らしたらグラスから水が溢れてしまいそうな程危うい心を必死に抑えて、奏音は自室に戻って行った。
「太宰。手前も少し休みやがれ。
手前がその調子だとこっちの気も狂うんだ。」
中也が太宰を抱き抱え、太宰の執務室の寝台に彼を寝かせ、鴎外の元へ向かった。
◇◇◇◇
「ふふふ〜ん。
そろそろ有島くんと業くん帰ってくるかなぁっと。」
ケイは1人で鼻歌を歌い乍、珈琲をカップにそそいでいた。
「……戻ったよ。」
意気消沈した様な有島の声が廃ビル内に虚しく響く。
「参ったね。君がその状態ってことは、業くんは本当に消えちゃったの?」
状況を瞬時に察したケイは有島を支え乍ソファまで連れて行く。
「有島くん。君はよく頑張ったよ。
もう……休んでいいさ。奥の部屋に薬と寝台がある。そこ迄連れて行ってあげるから、そこで休んでいな。」
ケイは優しく有島を介抱して歩き出した。
◆◆◆◆
「中原です、失礼します。」
中也は森の前にそそくさと膝を着く。
今すぐにでも話し出したい、と云わんばかりの落ち着きのなさであった。
「何があった。報告し給え。」
鴎外の一言で、中也の感情も含めた状況を洗いざらい話し出す。
「成程。業くんは矢張り死んでいた、か。」
鴎外は差程衝撃を受け無かったようで、何時もの口調を崩さず、中也に向かいの席に座る様勧める。