第1章 出会いと始まり
「あー、素直に云えば?先刻はすみませんでしたって。
君からなら許してくれるでしょ。」
中也の名前が出てくるのが些か面白くないのか、太宰は不貞腐れている様だった。
又、何時もの太宰からは想像の付かない表情で少女の頬を両手で挟んでいた。
「さてと。今から行く?それとも明朝にする?」
太宰は立ち上がり乍問う。
『……今にする。気持ちが揺らがない内に。』
意を決した様に少女も勢い良く立ち上がる。
黒の外套を手に取り少女は部屋の外へと繰り出した。
◆◆◆◆
「首領、申し訳ありませんでした。あの少女、取り逃しました。」
その頃ポートマフィア本部首領室では、中也が鷗外に向き合って片膝を地に付け、頭を下げていた。
「ふむ…まぁ、元より上手くいくなんて思ってなかったけど…強情だね、あの子も。」
昔を懐かしむ様な瞳で外を見る鷗外。
暫しの沈黙の後、中也が何かを発そうと、口を開きかけた時だった。
首領室の扉がノックも無しに開かれたのだ。
そこに居たのは
────太宰と少女だった。
「……太宰くん。どうやって彼女を…」
驚き目を見開く鷗外を他所に、太宰はずんずんと歩みを進め、中也の前まで少女を連れていく。
『あ、あの…』
か細い声で話し出した少女の声を聞き漏らさぬ様に中也は神経を少女の声に集中させた。
『先刻は、酷い云い方をしてごめんなさい。』
そう云って少女は頭を下げた。
「え、否、あーっと…」
いきなりの謝罪にしどろもどろになる中也。
「…気にすんな。俺らが嫌だったんだろ。」
そう云って中也は少女の頭をガシガシ撫でてみせた。
すると、少女はくしゃっと笑い、
『ありがとう。』
と云った。
そして鷗外の前に丁寧に両足を揃えて立つ。
『森さん。先刻の話、承りますよ。もう一度ポートマフィアに協力します。
……唯…三度目は無いです。』
そう云って少女は太宰の元に戻って行く。
「…奏音ちゃん……本当かい?
本当に戻って来てくれるのかい?」
鷗外は信じられない、と云った顔で少女を見つめる。
『ええ、。
あ…私の名前は奏音。以後お見知り置きを。』
そう云った奏音は何処か決心の付いたような顔をしていた。