第10章 目指すのは

「っと……此処は？」

「奏音の執務室の前。
僕らの潜入は完璧だねぇ。」

有島は得意げな顔をして笑う。


「そりゃ幻想使ったら一発ですよ。


……何で奏音居ないんですかね。」


不服そうな口調でそう零す業。




「…来る。」

有島が一言そう告げた次の瞬間、二人の前に奏音が降ってきたのだ。




「…っうぁぁ！」

業が驚いて大きな声を上げる。



『うわぁぁぁっ！



なんで業と有島さんが此処に…』

奏音は頭が整理出来ず、混乱していた。



「いきなりで申し訳ないけど、

奏音。僕らと一緒に来てくれない？」

有島はそう云って奏音の肩に触れる。



『私も聞きたいことがあるの。
いいよ、でも…私の執務室は駄目なの？』


「駄目でしょ。掻い潜るものが多すぎる。」

業が肩を竦ませて苦笑いする。


すると、突如有島がそわそわしだす。

「拙い。移動しなきゃ…」


次の瞬間、彼らは地に膝を着いていた。



「…中原中也。重力使いか。」




そう。中也が三人に異能を使ったのだ。


「よぉ。よく監視カメラや部下を掻い潜ったな。

…奏音。手前はこっちへ来い。」



『………無理よ。
私は、二人から聞かなきゃいけないことが沢山ある。知りたいことがある。


それをみすみす逃す訳にはいかない。』

奏音の目には、大きな希望と微かな不安がちらついていた。


「奏音。世の中にはな、知らなくていい事なんて塵芥みたいに沢山あるんだ。

手前にとって、過去を知ることは辛いことでもあるんだろ？だったら自分から精神を病みにいくなよ。



話は俺が全部聞いて受け止めてやるから、さ。」


中也は苦しそうに話す。
奏音が知りたいと思う気持ちを踏み躙るのも辛いし、辛い顔をした奏音を見るのはもっと辛い。




彼の中の葛藤は凄まじいものだった。



────奏音を愛しているが故の葛藤が。