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サンビタリア

第1章 第一章 ①





『集合ッッ!!』とキャプテンの言葉を合図に一箇所に集まり出す部員達に圧倒される。




グラウンドに響く多数の足音が地を揺らしその振動がこちらまで伝わる様に思えた。
部員達は横列作り休めの姿勢でサングラスをかけた厳格そうな男性の前に集まっていた。
そんな彼等を間近で見るのは初めてで緊張からか心臓が委縮してしまった。


そんな私を横目で見ながら親戚であり青道高校野球部副部長を務める彼女、高島礼にクスリと笑われた。
『顔が強ばってるわよ』と小声で指摘を受け頬に手を伸ばしてみる。

確かに緊張はしているが顔にまで出てただろうか。元々表情筋をあまり使う方ではない黒瀬は今更遅いが『いつもこんな顔』と同じように小声で返した。


練習に参加するよう申し出てきたのは礼からだった。

『貴方野球経験無いんだし間近で見ておいた方がいいんじゃない?』

新たに生活するアパートについて早々引越し祝いだと粗品片手に現れたのは礼だった。
野球に興味を持ち始めたきっかけは中学三年の夏、礼に練習試合を観に来ないかと誘ってくれたのがきっかけだった。
その頃の私は特別好きなものも無く、ただ淡々と時が過ぎていくのを待ちエスカレーター式だった高校に入学するとと思い込んでいた。
学校では淡泊で無愛想な性格故友達がおらずただ成績だけ上位をキープする目的で通っていた。部活も特に入りたいものは無く帰宅部で学校が終わると寄り道もせず真っ直ぐ帰っていた。
そんな私を見兼ねてか礼はこう言った。

『学生ってあっという間よ?楽しまないでどうするの。確かにこのまま高等部に上がって勉強だけしてる生活もありかもしれないけど面白みがないでしょう。一度違う世界も見てみたらどう?』


きっと礼は彼等の闘志や熱意を見せて私に刺激を与えようとしたのであろう。習い事は小さな時色々させられていたが何も身になるものはなかったし刺さらなかった。礼のお誘いは【誘う】というより【強制】に近く、一度断ってもまた誘いに来るだろうと思った私はため息混じりに行くと返事した。



そして礼の言った通り彼等の試合を観て今まで無かった感情が溢れてくるのを感じた。


正確にはこのチームもなのだが一番はある一人の選手のプレーを観て胸の辺りがザワつき熱くなるのを感じたのだった。
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