第10章 これは異能の所為/※森鴎外
しかしもう魅月の表情は、艶のあるというよりは、淫らに乱れた、扇情的な表情をしていた。
そして、なぜ止めるのかと甘えた声を出す魅月に対し、自分はまるで正常であると言い聞かせた鴎外が、なるべく優しい声で語りかける。
「いきなりこんな大胆なことをしてくるなんて、いつもの君らしくないじゃないか。何か、敵対組織に吹き込まれたのかい?」
彼の質問に、魅月は首を振った。
「…ちがいます。ずっと、こうしたかったんです、鴎外さん…」
突然下の名前を呼ばれ、鴎外は不覚にもドキリとしてしまった。
彼女のジャケットははだけており、なんならシャツのボタンにまで手を伸ばしている。
「本当に私か疑ってますね?むかーしに受けた傷を見れば本物だって、わかりますよ…」
「ちょ、ちょっと待って…!?」
ボタンを外し、肩までシャツを下ろした魅月の手を咄嗟に掴んだ。
肩甲骨の当たり、傷跡がちらりと覗いた。
これは、彼女が任務に初めて就いた時にやられた跡だ。
嫌でも、本人で間違いないということがを突きつけられる。
だが、彼女のあまりの乱れように、少なからず鴎外は興奮しかけていた。
いつもとのギャップに差がありすぎる。
彼女の意思がそうさせているとは考えづらい。任務中に何かあったと考えるのが妥当だ。
「魅月、何かあったのかい?」
彼女は、うーんと何かを考える仕草をしたが、すぐに目を細めた。
「そんなこと、どうでもいいじゃないですか…首領もほんとは、こうなることを期待してたんじゃないですかぁ…?」
柔らかな口調で魅月は煽ると、空いた手を彼のベルトに滑らせた。
今まで何とか耐えていたが、魅月の乱れっぷりに鴎外の理性のダムは決壊寸前だった。
きっと、異能力の仕業に違いないと思いつつも、この色香に塗れた魅月を楽しみたいという気持ちが勝りかけている。