第11章 くゆる紫煙と君の香り/広津柳浪
何故自分が、この少女─否、女性と度々逢瀬を重ねているのか、時折不思議に感じる。
仕事上、立場や配属先も違うためあまり関わり合うことはない。何をきっかけに知り合い、話し、会うようになったのか、はっきりとは思い出せない。
恋愛対象にするには、少々歳が離れすぎている。ましてや、このような仕事柄、そんなことに現を抜かしていれば、いつ自分の首が飛ぶか分からない。
雑技団の綱渡りのように不安定だ。
だが、煙草を吸えずにグロスに濡れた唇を尖らせる彼女に、ついつい見とれてしまった。
彼女越しに遠くぼやける、ヨコハマの灯りが丸く光り、まるで物語のヒロインのように見えた。
ちら、とこちらの視線に気づいてサッと目を逸らす。
「なんですか、空のライターを点けるのがそんなに面白かったんですか」
少し拗ねたように話す魅月がおかしくて、つい笑ってしまった。そのようすがおかしかったのか、今度は彼女の口角が上がる。
「あれ、広津さんもそんなふうに笑えるんだ、意外」
「失礼…でも私も、このような形だが中身は普通の人間だ。血も涙もある」
もちろん、多少の下心も─。
弾んだ会話が心地よいのか、少し笑みを浮かべたまま広津は煙草を持つ指で、魅月の指先で弄ばれている長い煙草を指した。
「それ、吸わないのか」
指の動きを止めた魅月は、「火がないんで。残念ですけど」と口に咥えて言った。
「まあ、こうして咥えてるだけでも落ち着くっていうか…」
広津は、ふぅと一息紫煙を吐き出す。
「火、点けてあげようか」
彼のジッポーを借りれるのかと思い、魅月はぱっと顔を輝かせると、「では、お言葉に甘えて」と言おうとした。言おうとした、のだから言えなかった。
魅月の返事を聞く前に、広津は流れるような動作で彼女の肩と頬に白手袋をはめた手で触れるように抑えた。
そして、魅月が咥える煙草に、シガーキスを落とす。
何が起きてるか分からない魅月は、石のように固まると、タバコからは2本の煙が緩く上がった。
それを確認すると、彼は離れた。そして、さっきと同じようにゆったりと煙を堪能している。
呼吸を少しだけ忘れ、噎せそうになるのを堪えると、魅月もまた、何も言わずにただただ耳を真っ赤にして、煙と、この時間を噛み締めた。