第9章 熱帯夜にシャンパンを/森鴎外
会場へ到着した時の出来事もあってか、はたまた先程ボーイからもらったシャンパンをかなりのペースでのんだからか、魅月の頭は濃霧がかかったようにぼーっとしていた。
隣で優雅に赤ワインを煽る彼に、魅月はまた無意識にじっと見つめてしまった。
その視線に気がついたのか、鴎外は口元にワイングラスを持っていったまま、「ん?」と目線をこちらに向ける。
もちろん視線がかち合い、魅月は思わずシャンパングラスを口につけて誤魔化した。
そんな魅月のおかしな様子に、目ざとい鴎外が気づかない訳もなく、彼女の顔をわざとらしくのぞきこんだ。
「今日は何だか大人しいね」
「そ、それは、こんなパーティー初めてですし…重役の方がこれほどに多いとは知らず…」
モゴモゴと狼狽える魅月に、「ふ〜ん」と鴎外は口角を上げる。
そして、彼女のつま先から頭のてっぺんまでじっくりと見つめると、満足そうにため息をついた。
なんですか、と魅月がちらりと睨みつける。
「やっぱり、私が見込んだだけあるね。とっても綺麗だよ、魅月」
至極当然のようにさらっと恥ずかしいことを言われた魅月は、動転してついグラスに残っていたシャンパンを全部煽ってしまった。
喉がアルコールによって熱を孕む。
「おやおや。今日は随分と呑むねぇ…君、そんなに強かったっけ?」
「……」
鴎外の問いに、魅月は何も言わずに再び睨みつけた。
が、アルコールのせいで頬や耳は赤らんでいる。
それに加え、まるで泣き腫らした子供のようなふくれっ面な表情までうかべるものだから、鴎外は思わず笑を零した。
まずい…酒にばっかり頼っていたら、持たなくなる…と魅月は思ったが、それ以外にこの気持ちをどうにか処理する方法は、霞んだ頭ではしっかり考えられない。
傍から見たら、親子のような微笑ましい二人に、一人の男が歩み寄った。