第7章 危険なロマンス/太宰治
盗難の一部始終を見ていた太宰は、魅月にこんなことをもちかけた。
「今から30分以内に、自分を含めた誰にも見つからずにまたこの場所へ戻ってきたら、欲しい情報商材を渡す」
いわゆる、かくれんぼみたいなやつだよと太宰は言った。
何故こんなことを持ちかけたのか聞くと、「退屈だったから」と子供のようにしれっと答えた。
変なのに見られちゃったなあと思いながら、魅月はある事を思いついた。
ずっとこの中で逃げ回るのはリスクが高いので、一旦外に出て再びここへ戻ってくる。
侵入するための経路は確保してあったから容易いし、ここへまた来れば情報商材を貰えるかもしれない。
危険だと思ったら直ぐに逃げる準備もこの間にしておけばいい。
完璧!そう思った魅月は、快く彼の要求を聞き入れた。
「交渉成立。じゃあ今から30秒数えるから、その間に隠れてね」
太宰は壁に顔を向けてカウントし始めた。
魅月は笑みを隠せないまま部屋から一旦出る。
先程用意した侵入経路を逆から進み、ビルから出ようと試みる。
さっき考えた作戦を実行すれば、ほぼ目的は達成される。
想像しただけで思わず口角が上がる。
売り飛ばし、そのお金を何に使ってやろうか。
新しい電化製品を購入しようか、それともホテルでしばらく過ごそうか、高級ディナーでも食べに行こうか。
映画のフィルムのように流れていた想像は、そこでぴたりと途切れてしまった。
まるで、鋏で切られたように。
魅月は思い出した。いつだって1人だということ。
どんなにお金があって幸せでも、自分を無条件に愛してくれる人はいない。
いつも、ひどい孤独感が寝る前に襲ってきていた。その度に目が冴えてしまい、何度も寝返りをうって、泣いた夜もあった。
その孤独感が、魅月を「盗み」という行為を生んだ。達成感とお金で、それから逃げることが出来た。
よく言えば、逃げ道。
色々と考えはしたが、結局私はこうするしか自分を保てない。
そう考えて、遅くなった足取りを元に戻す。
とりあえず、ここから一旦出ようと考え、なるべく音を立てずに走り出した。