第7章 危険なロマンス/太宰治
数刻前──
魅月は初めてではない盗みを働いていた。
今回のターゲットは、ポートマフィアと密かに取引をしている取引先の情報商材。
企業の基本情報はもちろん、取引内容、裏取引について、等。
これを欲している者や企業は少なくはない。
高額で売れば、しばらくは何も心配せずに暮らすことが出来る。
天井に張り付きながら、にんまりと笑みを浮かべる。
腰に巻いたベルトから、テグスのような細い糸が出ており、ベルトと天井梁を繋いでいた。
糸を引っ張り強度を確認した後、ベルトについたボタンを押す。
ベルトから更に糸が流れ出て、そのまま魅月は音を立てずに飛び降りる。
魅月の体重で糸はピンと張られ、水が流れるようなスピードで床へと降りた。
一切の音もなく上から現れた侵入者に驚く見張り役。
催眠スプレーを素早く放つ。
見張り役は報告をする間もなく、床に倒れ込んでしまった。
倒れた体をまさぐり、鍵は無いかと探す。
扉横に液晶が付いていることから、鍵は恐らく…
「発見♪」
カードタイプの鍵を取り出し、液晶にスキャンさせた。
指紋認証を要求されたので、腕をつかみあげて無理やり認証させる。
かちゃり、と意外と普通の音を立ててロックが解除された。
扉を開けて中へ入ると、引き出しがびっしりと並んでいた。
どれも重要書類のようだが、目当てのものだけ盗ることが出来ればと、インデックスを順番に見ていく。
「多すぎだよこれ…」
嘆息し天を仰ぐ。
思ったよりも情報が多すぎて、まさか目当てのものを探すのにこんなに時間がかかるとは思いもしなかった。
今回は諦めようか…とため息と小言を漏らしながら扉へ体を向ける。
思わず息が止まった。
扉の外側に、黒いコートを着た男が気だるげにこちらを見つめていたから。
包帯の巻かれていない、片側の目でこちらをじいっと見つめている。
思わずウエストポーチに入っている催眠スプレーに手を伸ばそうとすると、彼はけらけらと笑った。
その笑顔を見て、魅月は一瞬だけ何らかの感情を抱いた。