第10章 これは異能の所為/※森鴎外
魅月はそう言いかけると、目を閉じて膝を折った。
まるで操り人形の糸が切れるように。
鴎外は、咄嗟に魅月の背中を支えた。
頬に涙のあとを残して、魅月は子供のように眠っている。
「…どうやら、異能が切れてしまったようだね、残念だなぁ」
乱れた魅月の前髪を整え、額にキスをした。
もちろん目が覚める訳では無いが、心做しか少しだけ表情が緩んだように思える。
それにしても、本当に嘘みたいな時間だった。
まさか魅月が自分を好いているとは思わず、自分も魅月を好いていたことも気付かされた。
今回に限っては異能力に感謝だが、それに頼らずとも魅月が気持ちを伝えてくれるのもきっと嬉しかっただろう。
目を覚ましたら、彼女はこのことを覚えているだろうか。
どちらにしても、そちらに転ぶだけだ。
彼女の初々しい反応を楽しむもよし、今日の続きをするのもよし。
そっと魅月の耳元に唇を近づけ、愛の言葉を囁く。
聞こえているのかいないのか、魅月は少しだけ声を漏らした。
ポートマフィアの首領である自分に、安寧の日々が訪れる訳では無い。
しかし今は、腕の中にいる愛する人を、心ゆくまで眠らせてあげよう。
それが、血で染った自分が今出来る、唯一のことだから。
─END─