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ポートマフィア短篇集

第6章 湯煙に紛れて/芥川龍之介


あまりにも情報過多すぎて、芥川は彼女が云った言葉を理解するのに、5秒ほどかかった。

風呂、嫌い。

外套、脱ぐ。

魅月と一緒。

初めて一緒。

巻いてあるタオル。

肌。

そこまで考えたところで、芥川は我に返った。

「い、一緒に…タオル…?」

「タオル?」

恐らく、脳神経でもどうかしてしまったのであろう。

言うはずのない言葉がでてきてしまい、もう芥川は顔を上げることができなかった。

「タオルは、巻くよ?もちろん。それとも…」

魅月はふいに芥川の赤くなった耳元に唇を寄せる。

「タオル、無しで入ってみようか…?」

なんてね、冗談だよ!と彼女は笑っていたが、芥川の思考回路は潰れた。

普段から一般的なカップルに比べてスキンシップは、割と少なめだと思う。

特に、芥川からは。

魅月は知っての通り、そんな彼で遊ぶようにしてるが、芥川から誘ったことは今のところなかった。

しかし、この外套を脱げば、異能力が使えなくなってしまう。

万が一のことがあったときに、魅月を守ることが出来なくなってしまう。

それはかなりのリスクがあるので、芥川は一度深呼吸をした。

いつも色々と世話を焼いてくれる彼女に何か応えたい。

それに、自分自身も彼女と入浴出来たらどんなにいいだろうと少なからず考えていた。

異能がなくても、守れるようにしなければ。

彼女と入浴するために、あれこれと後付けのように理由を考えた芥川は、彼女に向き直る。

「承知した、入ろう」

「え?」

風呂嫌いを知っていながら、少し意地悪めいて言ってみたのだが、思いの外あっさりと了承したことに驚いた。

「タオル無し」なんて冗談で、それを言われた芥川の反応を見てみたかっただけだった。

自分から誘ったくせに、こうもすんなりと承知されてしまうと、なんだか思ってたのと違う。

それまでのことが酷く恥ずかしく思えて、逆に魅月は頬や耳を赤らめた。

「や、ごめん、冗談だよ!」

彼女の言う、「冗談」という言葉に、芥川は少し眉間に皺を寄せた。

折角色々と考えて、入浴する決意をしたのに…今までの苦労(?)が無かったことになってしまいそうだ。

「僕にそんな冗談は通じぬ。入ると言ったら入る」



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