第5章 Dimbula/森鴎外
「さて、そうだな。初めて手をつないだのは、立食パーティーに呼ばれた時だったかな。慣れないドレスを着て、階段を降りる君。可愛らしかったなあ」
一歩、魅月に近づく。
「そして、キスは…あぁ、そういえば君からだったね。私がこの椅子に座っているときに、君は資料を渡してきた。私と向かい合ったときに、触れるような短いキスをしてきたじゃないか。あの時君がつけていた口紅と、君の赤らんだ顔がもう美しくて」
また一歩、近づく。
「もう少し、深い方もあったかな。ふふ、これは私からだね。出張で泊まったホテルのドレッサーの前。鏡に映る君とキスをしている自分を見ながら、気持ちが高ぶっていたことなんて、君は知らないだろう」
今度は、二歩近づいた。
「この先、聞きたいかい?深いキスのあと、白いシーツのダブルベッドに君を…」
そこで森は、さっと彼女に磁石のN極とS極が吸い寄せられるように、密着する。
拳銃を持ったままの彼女の両手を、片手で絡めとる。
その負けてか、拳銃は床に落ちた。
そのまま、魅月の足を引っかけてバランスを崩し、傾く彼女の背中に腕を回すと、深い赤の絨毯の上に魅月を組み伏せた。
森は、吐息がかかる程に魅月の顔に近寄せる。
「こんな風に、少々乱暴気味に君を押し倒して、欲に任せた噛み付くようなキスをしたね」
怯えたような、畏怖を含んだ瞳で自分を見つめてくる魅月の表情は、今までにない程に扇情的で、理性が決壊しそうになるのを必死でこらえた。
そのままお互い何も言わず、ただ魅月は荒い呼吸を繰り返した。
森は彼女の瞳を咀嚼するように見つめる。
そして、魅月の耳元に唇を寄せた。
「さぁ、続きといこうじゃないか」
続き。
どこからの続きかはもう分からないが、魅月の心臓ははち切れそうな程に脈打っていた。
それを知っててか、森は彼女の脈を感じる手首に力を込める。
「ぼ、首領…、ごめんなさい」
今にも涙を流してしまいそうな程に、震える魅月の言葉に、彼は首を傾げた。
「謝る必要は無いよ。弾が装填されていない銃を向けられても、痛くも痒くもないしね」
え、と魅月の瞳が見開かれる。
「私の大切な人に、そんな危ないもの持たせられないだろう」