第4章 Sweet time/森鴎外
彼女、十中八九成人してるように見えるが、普段のしっかりした様子から、粉薬が飲めないことが不釣り合いで可笑しく、笑ってしまった。
「なるほど、それで飲むのを躊躇っていたんだね」
そう聞くと魅月は小さく頷いた。
とにかく、薬自体を怪しんでいるのではなかったことに安心する。
だが、森はそんな彼女の様子が、とても可愛く見え、ちょっと意地悪をしてみたくなった。
「困ったなあ。先程、ギフトとしてのお菓子を購おうと、お店に行こうとしたんだよね。そしたら、君が風邪を引いていたものだからね。君から購えないんじゃ、どこで購っても同じだから、違うところに行こうかな」
大袈裟な調子でそう言われ、魅月はぐっと唇を噛み締めた。
「そんな事言わないでください…すぐに風邪治しますから」
「じゃ、それ頑張ってね」
はっとして魅月は森が言ったことを理解し、また嫌そうな顔をする。
「どうしてもこれじゃなきゃダメですか」
「ダメ」
「錠剤では…」
「生憎、持ち合わせがなくてね」
うーん…と彼女はしばらく考えていたようだが、ついに意を決したように強く頷く。
「せっかくのご好意を、無駄にしてはいけないですね。子供じゃあるまいし、私頑張ります」
思ったより早く決心が着いてしまったので、森は少し拍子抜けしてしまった。
これでは企んでいたことが出来ない。
彼女の方はと言うと、ぬるま湯を口に含んだところだった。
コップを横にある机に置き、粉薬が入った袋の角を小さく破いた。
目を閉じ、上を向いて口を開けると、破ったところから粉薬を口に流し込んだ。
すぐに口を両手で押さえ、吐きたくなる衝動に耐えながら、嚥下を繰り返していた。
しかし、薬の苦味に耐えられないのか、何度か喉の奥から吐き戻されるようで、その度に彼女は目に涙を浮かべながらも、それでも出すまいと何度も飲み込んでいた。
くぐもった声を出しながら、何度かそれを繰り返したあと、またコップに手を伸ばして勢いよくぬるま湯を飲み干した。
「…っ、はぁ、はぁ…の、飲めました、ありがとうご…んぅっ!?」
彼女がそれらを言い終わる前に、森は彼女に口付けをしていた。
突然の出来事にフリーズしたのをいいことに、彼は軽く魅月の唇を自身の唇で噛むように挟み、そのまま引っ張るようにして離れた。