第4章 Sweet time/森鴎外
目を見開いて、口を抑える魅月を見て、森は「ふふ」と笑う
「頑張ったじゃないか。私からのご褒美、なんてね」
徐々に顔から耳にかけて赤くなる彼女を見て、森の悪戯心は膨らみ続けた。
「な、なに、して…?」
気が動転し、声を出すのが精一杯だった。
だが、驚いていたのもつかの間、魅月は満たされたような、非常に密度の高い満足感に襲われた。
こんなに幸せなこと、あっていいものなのか。
あまりにも、甘すぎやしないか。
森の方はというと、目を細めてあたふたとしている魅月を眺めていた。
あの日、偶然お店に入った時から、彼女には惚れていたようだった。
優しい声、白い指先、ふわりと垂れた瞳…完全なる一目惚れだ。
エリスがプリンを気に入ったことをいいことに、口実を作って店に行くことができた。
ちょっとしたハプニングではあったが、こんな形でも彼女を「客と従業員」という立場から抜け出して会うことができたことを、森はうれしく思っていた。
だが、口を押えたまま押し黙る魅月を見て、だんだんと不安が募ってきた。
もしかして、既に相手が居たとか…
まさか、初めてだったとか…
「あ、すまないね…つい、してしまって。嫌だっただろう」
そう言うと、魅月ははっとしたように顔を森の方に向け、勢いよく首を横に振った。
「い、いえすみません!その、嫌とかじゃなくって…いつか、こうなれたらなあ、なんて思っていたものですから…でもいざそうなると、何だか恥ずかしくて…」
あれこれと言葉を並べる魅月を見て、森は安堵感と達成感に溢れる。
「それなら安心だ。遅くなったが、私は森鴎…いや、林太郎だよ。改めてよろしくね。えっと…
「あ、失礼しました。私、夜凪魅月と申します」
「よろしくね、魅月」
「…!は、はい。林太郎、さん…」
そんなやり取りに、森の感情は臨界点に達し、甘い笑みを浮かべると、顔をまだ赤くしている魅月に口付けた。
優しいそのキスに、魅月は身も心も溶かされていくような深い感覚に呑まれ、彼の首に両腕を回した。
そんな甘い時間の数日後、魅月の風邪は完治し、森は原因のわかる頭痛や喉の痛みに苛まれるのであった。
─END─