第4章 Sweet time/森鴎外
きっと、このプリンを食べれば治るはず。
そう自分に言い聞かせながら、重い体を引きずるようにして店を出た。
2日ほど前から体調を崩していた。魅月は今日の午後、ついに限界が訪れて早退した。
明日が休みで本当によかった。
でも、明日もし彼が来たらどうしよう。
とても勿体ないではないか、でも動けない…。
終わりのない考えを巡らせ、鉛が埋め込まれたのではないかと思うほど、体は一歩進むごとにどんどん重く感じるようになった。
家までは、電車で二駅。
駅までは、徒歩10分程。
いつも特に不満に思わない通勤路が、今日は不満しか感じなかった。
店を出て、数歩で家に着けばいいのに。
ありえない事を考えると、気が紛れるような、紛れないような。
店からまだ数十歩しか歩いてないはずなのに、歩幅か段々と狭くなり、進む速度が落ちているのが嫌でもわかった。
頭が風邪のだるさに侵され、意識が朦朧としてくる。
駅って、こんなに遠かったっけ…
私って、こんなに体が重かったっけ…
何にも、分からない。
視界がぐるりと周り、地面のタイルと顔がかなり近づいたぐらいで、ぷっつりと魅月の意識が途切れた。
途切れる間際、誰かが支えてくれたような、くれなかったような。
「大丈夫かい」
と、その誰かが言ったような、言ってないような。