第4章 Sweet time/森鴎外
「せ、1000と20円お預かりします」
何やっているだ自分、いつものように会計しているだけじゃないか!
自分を叱咤するも、レジを打つ指は震えていた。
そういう時にミスが起こりやすいから、と彼女はいつもより念入りに確認をし、今度はキャッシュトレーに100円玉を3枚乗せて差し出した。
「300円のお返しです」
「ありがとう」
丁寧な手つきで、彼は財布に小銭をしまう。
その動作が終わったことを見計らい、プリンが入った箱を差し出した。
今度は、なるべく手が触れないようにと、箱の持ち手から手を遠ざけておいた。
予想通り、彼は持ち手をそのまま持ったので安心する。
「仕事の合間にこれを食べると、ほんとに捗る気がしてね。エリスちゃんも大層気に入ったし、ほんとにいいものを見つけたよ」
プリンを受け取った彼は、至極嬉しそうにそう言った。
なんだか、この人の笑顔は人を幸せにできるんだなあとは静かに思う。
「ありがとうございます。またお待ちしてますね」
「たぶんまた来るよ。その時はよろしくね」
ではでは、と彼は軽く手を振り、扉へ向かった。
魅月は、あることに気がつくと、すぐにカウンターから出た。
彼は、プリンを受け取ったことで両手が荷物で塞がっていた。
「扉、開けますね」
何とも自然な気遣いだった。
「この間も思ったけど、貴女は本当に優しいね。また来たくなっちゃうなあ。どうもありがとう」
そう言い、彼は店を後にした。
魅月は、先程の言葉に対して、恥ずかしさと嬉しさとが混ざりすぎて、何も言うことが出来なかった。