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ポートマフィア短篇集

第4章 Sweet time/森鴎外


ある日のこと、魅月は平日午後の暇さにどっぷり浸からせれていた。

立っていても、誰も来ない。

午前中のあの忙しさが嘘のようだった。

売り切れを恐れた客たちが、こぞって午前中にやって来た。

しかも、開店前から列まで作って。

それが今、午後になった途端ぴたりと客足が無くなった。

加えて、今はもう1人のスタッフは休憩中。

退屈しか感じない。

外が見える大きな窓から、中をちらちらと見る人はいるが、入店する人はいない。

仕事が終わるまで、あと数時間ある。

一旦、お菓子たちの整頓でもしようかと、カウンターの中でしゃがんだ時。

カラン、と店のベルが静かに鳴って、1人入店したのがわかった。

は、として急いで立ち上がる。

「いらっしゃいませ…」

語尾がどうしても小さくなってしまった。

目の前に立っていたのは、以前来たあの男性だった。

「こんにちは。この間はどうもありがとう」

またも、柔和な笑みを浮かべる。

先程までの退屈は一瞬で消え去り、今日シフト入れておいてよかった!と思えた。

「いえ、こちらこそありがとうございました」

そう伝えると、彼の周囲をちらりと見る。

「そういえば、今日は…」

「あ、エリスちゃんね。今日は一緒じゃないんだよ。だから、お土産にこのプリンを購って帰ろうと思ってね」

なるほど、と魅月は頷くと、プリンが入る箱を取り出した。

「おいくつになさいますか?」

「じゃあ、2つ頂こうかな。私も、このプリンが気に入ってね」

プリンを見ながら笑う彼に、何だか可愛らしさを覚えて、思わず笑顔になってしまうのがわかった。

「かしこまりました」と、しゃがんでショーケースを開け、プリンをそっと2つ取り出す。

箱に入れ、保冷剤を入れて…いつもの様にやってるつもりなのに、何だか上手く入らない。

落ち着いて、と自分を諭しながら何とか一通り終える。

「720円でございます」

金額を伝えると、彼は既に用意しており1000円札と10円玉を2つ差し出した。

思わず、魅月は手を出して受け取ろうとしてしまった。

気づいた時にはもう手遅れで、彼はの魅月手にお札を乗せ、その上に硬貨を乗せていた。

お札越しに、硬貨を乗せる際に彼の指が掌に当たった感覚があり、また顔に熱が集まった。

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