第4章 Sweet time/森鴎外
「ありがとう」と静かに笑って、彼はお釣りを受け取った。
おそらく魅月は、彼の顔を見ていたのかもしれない。
似てないとか、歳は幾つくらいだろうとか、髭が生えてるなあとか、それでも綺麗な顔だなあとか。
「私の顔に、何か付いてますか?」
きょとんとした顔で、彼に聞かれた。
「あ、いえ!失礼しました。何だか、先程から微笑ましいなあと思ってて」
はっとして口早に言い訳をする。
顔に熱が集まるのがよくわかった。
「可愛らしい娘さんですね」
取り繕うように、お菓子箱を受け取る女の子の方を見て言う。
「可愛いでしょう。でも、私の娘ではなくてね」
え、と今度は魅月がきょとんする番だった。
この仲の良さ、親子では無いのかと、何故か安心した気持ちになってしまった。
「あ…すみません。よく知らないのに、喋ってしまいました」
その気持ちをかき消すように、ぽつりと謝る。
しかし彼は、「いえいえ、お気になさらず」とにっこりと笑って返してくれた。
その柔和な笑みに、また顔に熱が集まる。
仕事中故、あまり私情を出してはならないと夜凪は思わずニヤけてしまいそうになるのを堪えた。
なんて優しい笑顔なんだろう…
「さ、エリスちゃん、そろそろ行こうか」
「リンタロウ、次はキャンディのお店に行きたいわ」
微笑ましく会話をしながら、扉のベルを静かに鳴らして2人は店を後にした。
そんな様子を見ながら、魅月は精一杯の笑顔で、「またのお越しをお待ちしております」とマニュアル通りの言葉を伝えた。
あの女の子は、私にとって世界一の幸せ者に思えた。