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ポートマフィア短篇集

第3章 イノセント/太宰治


彼女の様子がおかしくなったのは、先月、彼女の元に降りかかったある疑惑の所為だった。

彼女はその疑惑を真っ向から否定し、無罪を主張したが、噂が噂を呼び、すっかり冤罪のようになってしまった。

それは、彼女自身だけでなく、ポートマフィアにも火の粉が舞うように広がっていった。

ポートマフィア─首領としては、その疑惑の発端たるものを排除し、そんな疑惑あろうがなかろうが、魅月には何も気にしなくていいよと言ったが、彼女が負った傷は深く、もう手の施しようがないほどの致命傷となっていた。

森鴎外は、その頃よく「目の前に傷を負って苦しむ部下がいるのに、触れることも出来ない」とぼやいていた。

発端は排除できても、煙のように流れて人体に取り込まれた噂までは消すことが出来ず、魅月は自身に関係ない、見えない罪を背負うようなことになってしまった。

森の勧めで、腕のいい心療内科やカウンセリングに通ったが、それでも効果はなかった。

大量の睡眠薬や精神安定剤を服薬しても、ただ眠く頭痛がするだけで、心が軽くなることは全くなかった。

深く、暗い海に沈んだような彼女だったが、ここ最近は、急に日が差し込んだかよのように、ぱあっと明るくなった。

むしろ、以前よりも明るくなったと言っても過言ではないほどで、周りとしては薬がよく効いたんだと喜んでいた。

嫌煙家で、酒も苦手だった彼女が、最近は何かに憑かれたように、それらを楽しむようにもなった。

そんな姿を、訝しげに思ったのは森と太宰だった。

太宰は森から、「夜凪君のことを、気にかけていてくれないか」と頼まれていた。

事の重大さを察していた太宰は、いつもの様に口を尖らせることなく、「わかりました」と受け入れた。



─そして今。

太宰が懸念していたことが現実となろうとしていることは、嫌でもわかった。

「あたしが今から何をしようとしてるかわかる?太宰さん」

風が、一層強くなった。

彼女の体が、ヨコハマに持っていかれそうになる。

「自分で自分を解放するくらい、許してくれないかなあ?わざわざ人気ないとこに、こんな時間に来たのにさ。君の所為で全く台無しだよ」



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